シンガポールへの旅

マリーナ・ベイ・サンズ


1.ジュエル・シティ

 日本国内は、お盆休みで帰省ラッシュの中、台風10号の襲来でフェーン現象が起き、全国各地で気温が40度近くに達して暑さに喘いでいるという。そういうとき、私がシンガポールで過ごしたのだけれど、気温は最高で32度ほどだったから、今の日本よりは過ごしやすい。まるで東南アジアに避暑に来たようなものだ。もっとも、直射日光を浴びると、こちらの方でも身にこたえるので、なるべく地下鉄(MRT)や建物内を歩くことにしている。近代的な都会だから、それで十分に思ったところに行ける。


ジュエル・シティ


ジュエル・シティ


 チャンギ空港に着き、最近完成したという「ジュエル」に向かう。ターミナル2の方向だ。クアラルンプールで、知り合いに「最近シンガポールにできた名所はあるか」と聞いたら、ここを勧められた。特に夜に行くと綺麗だという。今はお昼近くだけど、まあ良い、行ってみるかという気になった。近付いてみると、平らで丸いアンパン型の建物だ。入ってみれば、普通のショッピングモールのようなレストランが並んでいる。しかし、中心部から滝の流れるような音が聞こえてくる。そちらに引かれるように歩いていくと、なんとまあ、大きなドーナツ形の天井の穴から、滝が勢いよく流れ落ちている。3階建ての建物の天井からなので、少なくとも20メートルの落差がある。見ていると、ドーナツ型の透明な天井から、水が渦巻いて中心部に空いた穴に向かい、それが流れ落ちるものだから、もの凄い迫力の瀑布となる。

ジュエル・シティ


ジュエル・シティ


 昔々、お台場の東京ビッグサイトの向かいに計画された、東京ファッションタウン(TFT)というビルに携わったことがある。その売りものの展示は、「室内滝シャワーツリー35」で、入口付近にある「受け皿」に対して35メートルの高さから2トンの水が流れ落ちるというものだ。当時はなかなかダイナミックなディスプレイだと思ったが、このジュエル・シティの派手な「猛瀑」には、遠く及ばない。まるで大人と幼児だ。こんなところでも、シンガポールに追い抜かれてしまった。

 その日は、マリーナ地区のホテルに泊まった。昔からマンダリン・オリエンタルが私の定宿で、そこの朝食のお粥(ポリッジ)が大好きだったのだが、今回は新しいところを開拓しようと、泊まったことがないホテルにした。結論としては、外観は良いしMRTの駅にも近いが、東南アジアのホテルにしては、部屋の設備があまりよくないので、お勧めしない。ただ、朝食は良かった。今時シンガポールに来るなら、マリーナ・ベイ・サンズに泊まるべきだろうが、家内の体調が回復して一緒に来られるようになってからにしよう。


2.シンガポール・フライヤー


シンガポール・フライヤー


シンガポール・フライヤー


 午後はまず、シンガポール・フライヤー(新加坡摩天)に乗って市内見物をした。これは高さ185メートルと、つい最近、ラスヴェガスに抜かれるまで、世界一の大きさを誇ったそうだ。筒のような形のカプセルにゆったり座れる1周30分の空の旅である。ここからは、マリーナ・ベイ・サンズが横向きに見える。せり上がってくるに連れて、その向かいのガーデンズ・バイ・ザ・ベイの全体の姿が見えてきた。後からここへ行くつもりだが、要は植物園だ。

シンガポール・フライヤー


シンガポール・フライヤー


シンガポール・フライヤー


シンガポール・フライヤー


シンガポール・フライヤー


 フライヤーは更に上がり、シンガポール港の全容が一望できるようになった。ものすごい数の船が停泊中だ。さすが世界でも名だたる貿易港である。振り返ってシンガポール本体の方を見ると、高層ビルが林立している。どれが何のビルかは知らないが、上海やクアラルンプールのようなユニークな形のビルがあまりないのは、シンガポールらしい。それだけに、今回のマリーナ・ベイ・サンズの三本脚タワーの変わった造形がよく目立つ。ガーデンズ・バイ・ザ・ベイの見事な形も、非常に美しい。フライヤーの頂点近くでは、マリーナ・ベイ・サンズの頂点部が、まるで空に浮かぶ南海の孤島のように見える。あちらの高さが200メートルだから、やや見上げる形となる。ところが、距離が近いはずなのに、ややボケて見える。スマトラ島からの煙害(HAZE)の影響かもしれない。HAZEは、シンガポールとマレーシアの夏季のリスクになりつつある。だから、このフライヤーは、夜景を見た方が綺麗だったかもしれない。


3.マリーナ・ベイ

 マリーナ・ベイ・サンズに行き、タワー1から3までの根元に当たるショッピングモールとレストランを回る。天井が高いし、ブランドショップばかりだから、明らかにカジノ仕様だ。真ん中辺りにそのカジノ(賭場)がある。ただ、私は長年の経験でカジノは体質的に合わないので、今回も入ろうとは思わなかった。こういうものが、近々日本にもできるらしいが、ただでさえパチンコやら多重債務やらで問題が山積しているのに、また新たに似たような社会問題が出てきてしまうのではないかと危惧している。


マリーナ・ベイ・サンズ


マリーナ・ベイ・サンズ


マリーナ・ベイ・サンズ


マリーナ・ベイ・サンズ


マリーナ・ベイ・サンズ


 美味しそうな中華レストランを見つけたから、取り敢えずそこで食事をした。そろそろ日没なので、隣にあるガーデンズ・バイ・ザ・ベイに向かう。夜景が綺麗だというので、その写真を撮りたい。切符売り場に行くと、ダンス、フロート、ワルツなど幾つかのパートに分かれていて、全部を回るには時間がないという。「また来るからいいか、本日の目的は『スーパーツリー・グローブ』と称する木のような不思議な造形の夜景だから」と思って、「そちらに行くにはどうするのか」と聞いたら、シンガポール名物の無愛想な女の子が、「あっちへ行って、そちらで券を買え」とぶっきらぼうに言う。「これでは逆効果ではないか、ますます買う気がなくなる。」と思いつつ、そちらの方へと向かう。

ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ


ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ


ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ


 ようやく暮れなずむ頃になって、夜景に切り替わりつつある。ところが、気温が高く、30度は超えているのは確実だ。しかも湿気を含んでいるから、外を歩くとサウナに入っているようで、汗びっしょりになる。ブリッジを渡ってスーパーツリー・グローブの近くへと行った。いやこれは、宇宙のどこかの星に生えている木ではないかと思うほどにSF風の形をしている。10年ほど前にアバターという映画があったが、その中に出てくる惑星パンドラに生えていた木とそっくりだ。それが、夜空に紫色など様々な色に光るから、ますます現実離れした風景となる。また、その木と木の間が、カーブする細いブリッジで結ばれていて、そこを人が歩いている。かなり高い所なので、人間がアリのようにごく小さく見える。この暑い中を、あそこまで行くのかと思ったら、行く気が失せた。

 そろそろ、マリーナ・ベイ・サンズの夜の出し物である「光と水のショー」の時間が近づいてきた。そちらも是非見たいので、ガーデンズ・バイ・ザ・ベイはまた来ようと思って、再びマリーナ・ベイ・サンズに戻った。会場はプロムナードで、マリーナ・ベイ・サンズを背にし、向い側の高層ビル群を背景に、目の前の池のような運河のようなところが会場だ。適当な所に座る。


マリーナ・ベイ・サンズ


マリーナ・ベイ・サンズ


マリーナ・ベイ・サンズ


マリーナ・ベイ・サンズ


 開始時間の午後8時になり、光と水のショーが始まった。池の真ん中にでこぼこした柱が立っていると思ったら、それが光りはじめ、緑、青、赤の光を放ちだした。オーケストラのような荘重な音楽に合わせてあちらこちらで噴水が出だし、上へ斜めへ、色々な高さに水を吹き上げる。その水に色がつくから、いやもうその派手なことといったらない。噴水の中に三角形の形が現れる。プリズムでも使っているのか、それに色がついて美しい。音楽がどんどん盛り上がってきて、それに連れて噴水がますます高く吹き上がり、やがて全てが沈黙した。うーん、なかなかの演出である。こういう無駄なことができるというのも、カジノの稼ぎが元になっているからなのだろう。この時ばかりは、中東か中国か知らないが、カジノの鴨になっているお客さんに感謝したい。


4.リバー・サファリ

 シンガポールで、どこか暑くないところはないかと思って調べたら、まずはセントサ島の水族館があるが、既に行ったことがある。動物園も木陰が多くていいが、これも何回か行っている。少し前からナイト・サファリなるものも始まったが、写真が撮れないので、この案も却下だ。そういうことで、最近完成したばかりのリバー・サファリに行ってみることにした。もちろん、これは初めてだ。

 世界の川をテーマにしているらしい。それなら、淡水の水族館に違いない。きらびやかな熱帯魚はいないかもしれないが、水槽だから、涼しいに違いない。パンフレットを見ると、あれあれ、川とは無縁のはずなのに、パンダがいる。これはひょっとして、川というあまりに地味なテーマなので、文字通りの客寄せパンダのつもりで置いているのかもしれない。まあ、それでもいいか、上野以外でパンダが見られるのだからと思って、行くことにした。

 順を追っていくと、まず、ジェムス川には、エンゼル・フィッシュがいた。二匹がペアのようにゆっくり浮かんでいる。こんなにのんびりして大丈夫なのかと心配するほどだ。次のミシシッピ川には、いかにも獰猛な亀(Alligator Snapping Turtle )がいた。おお、これは数年前、上野公園不忍池で立て続けに見つかった噛みつき亀そのものだ。アリゲーターという名が付くガーという魚がいて、顔は鰐そのもの、体は古代魚である。そのなかでも、プラチナ・アリゲーター・ガーは、優雅で美しいから、一見の価値がある。コンゴ川には、タイガー・フィッシュという魚がいて、なるほど口に並ぶ歯が恐ろしい。ガンジス川には、小型の鰐、大型の鯰がいる。これでは聖なる川も、落ちたら大変だ。オーストラリアのメアリ川には、アーチァーフィッシュがいて、水鉄砲で昆虫を落とすらしい。見てみたいものだ。


リバー・サファリ


リバー・サファリ


リバー・サファリ


 次にタッチプールがあって、ヒトデや兜蟹を触らせてくれる。兜蟹は日本では天然記念物に指定されているが、ここでは幾らでもいるので、あまり有名ではないらしい。なお、系統的には蟹のような甲殻類ではなく、蠍のような節足動物の仲間だという。昔、マレーシアに住んでいたとき、東海岸に行ってこの兜蟹を持ち帰り、一時飼っていたことがあったが、お手伝いの中国人女性がそれを欲しがった。「何故だ」と聞くと、「食べたら美味しいに決まっている」という。『中国人は、四つ足のものは机以外は何でも食べる』と聞いたことがあるが、四つ足でもなく、こんな兜のような頭と槍のような尻尾しかない動物のどこを食べるというのかと驚いた。そこで、「食べるところなど、どこにあるのか」と問うと、「頭の裏側に卵があって、それが実に美味い」という。なるほど、先程の諺は、『中国人は、動くものなら何でも食べる』と言い換えた方が良さそうだと思った。

リバー・サファリ


リバー・サファリ


リバー・サファリ


 メコン川には、ジャイアント・キャットフィッシュつまり大鯰が出てきた。絶滅危惧種らしい。また、淡水エイもいる。エイを英語で言うと、「Stingray」とのこと。なるほど、直接的な表現だ。覚えておこう。長江には、大型の山椒魚(Salamander)がいた。これまた、日本では天然記念物である。次の本物パンダの前にレッド・パンダというのがいる。可愛いが、これは、まるで猫だ。さて、いよいよ「大熊猫」つまりパンダに会える名前は、凱凱(カイカイ)と嘉嘉(ライライ)だ。パンダ舎に入ってみると、上野公園のようなガラス越しではなくて、やや遠目だがパンダを直接見下ろすことができる。ガラスに反射しないから写真に撮るには良い。しかも取り放題だ。これでパンダが身体を起こして竹でも食べていてくれれば、それなりに絵になるのだけれども、そうは問屋が卸さない。目の前のカイカイは、だらしなく寝そべっている。しばらく待っても起きてくれそうにもないので、仕方なくそれを撮ってきた。生き物相手は、なかなか上手くいかないものだ。

 次に進むと、大きな貯水池に出て、そこを対岸まで渡っていける橋がある。渡り切ると、貯水池を小さく一周する船に乗る。いやまあ、単にそれだけである。対岸は動物園なので、木の間をゆっくり歩くキリンを見たのが一度だけあったが、変わったことといえばそれくらいで、あとは何もない。平和だ。平和過ぎる。心身ともに、無の境地になる。そういう調子で先ほど乗船した桟橋に戻り、ぼんやりとした頭で前を見ると、「アマゾン川探検」というのがある。これは有料だが、歩くのに疲れたから、乗り物に乗ることにして、乗り込んだ。


リバー・サファリ


リバー・サファリ


リバー・サファリ


 すると、いきなり、ガガガッという音と共に2階の高さに持ち上げられた。そこからは、ちょっとした川下りのジェットコースターもどきになっている。流れていく川の両岸に、何とかモンキーとか虎とかがいるらしいが、木に遮られて、よく見えない。もう終わりかけというときに、やっと、紅色のトキとフラミンゴ、そしてカピバラが見えた。これでは、フラストレーションが募るばかりだ。

 出発点に戻り、係員のインド人女性に冗談のつもりで「動物が見えなかったので、もう1回」と頼んだら、なんとまあ、それが通じたようで「OK」という答えが返ってきて、面白かった。こういう問答ができるのが旅の醍醐味だし、何事も頼んでみるものだ。日本の動物園では、全くダメだろう。そういうことで、もう1回チャレンジしたが、木の上で幸せそうに寝ている「吠え猿(Howler Monkey)」が見えただけだった。それでも係員の配慮に感謝しないといけない。その後は、シルバー・アロワナ、電気鰻、マナティにピラニアまで見て、まあ、こんなものだと納得した。


5.財富の泉

富貴の泉


富貴の泉


 ホテルに帰る前に、最近できた「サンテック・シティ」というショッピングモールに行ってみた。財富の泉というのができたというのである。どんなものかと思って立ち寄ってみた。するとそれは噴水で、覆うように黄銅色のリングが上方にあって、同色の柱で四方から支えられている。見ていると、中国人たちが嬉々としてその噴水を触りながらその周りを巡っている。3回まわると、お金持ちになれるそうだ。何とも他愛のないもので、これもシンガポールらしいというか、なんというか。






 シンガポールへの旅( 写 真 )






(2019年8月14日記)


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徒然303.湯島梅園の鴨鍋

湯島梅園


 夕方、会食があって湯島の料理屋「梅園」に出かけた。自宅から歩いて行ける距離だが、この日の気温は日中36度、夜になっても30度近くと、尋常ならざる暑さだ。来年のこの時期は東京オリンピックが開かれているので、来年もこんな調子では日射病と熱射病で倒れる人が続出しないかと心配になる。本日の料理屋は、歩いて20分で行けるとはいえ、着いて汗だくになっているのも困るので、わずか一駅だが地下鉄に乗り、湯島駅で降りて坂を上って行った。

 「梅園」は、同じく鳥料理屋の「鳥よし」の陰にあるし、駐車場の脇にあるから、一見すると非常にわかりにくい。ただ、玄関は、なかなか趣きがある。昭和51年の創業だそうだ。さっそく、名物の鴨鍋コースを注文する。すると、醤油味か塩味かと聞かれた。私は、さっぱりした塩味も悪くないと思うのだが、若い人は醤油味が良いと思って、それを注文した。


湯島梅園の鴨鍋の始まり



 お通しとか色々と出てきた後に、メインの鴨鍋として持ってこられたのが、次の鍋だ。あまりのユニークさに、一瞬ギョっとする。よく見ると、こんもりと鴨が盛り付けてあって、真ん中からエノキ茸が傘のように四方八方に広がる面白い造形だ。うーんと唸るしかない。これこそ奇観と言って良い。これでは鴨肉が煮えないではないかと思うのだけど、実は小山の中心がキャベツで出来ていて、煮え立ってくるにつれて高さが低くなってくる。その間、2回ほどご主人がやってきて、鴨肉と野菜の小山をときほぐす。そうすると、次のような普通の鍋になる。それを取り分けて、美味しくいただいた。鴨肉だからいささか脂っぽいが、栄養満点だ。鍋は冬という先入観念があったが、この暑さでこういう物を食べると、夏バテ防止になる。

湯島梅園の鴨鍋の食べごろ







(2019年8月2日記)


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