徒然299.青い種なんて初めて
2019.01.14 Monday | by
悠々人生
板橋熱帯環境植物館で見かけたこの真っ青の物体は、実は植物の種である。如何にも人が着色したのではないかと思えるほど鮮やかな青なので、その正体を聞いたら、誰もが驚くだろう。しかも、その植物というのは、私の好きな木だというから、また驚いてしまった。
というのは、私はシンガポールにはもう何十回も旅したことがあるが、その最初の頃に由緒あるホテルを試そうとして、ラッフルズホテルに泊まってみたことがある。これは、19世紀初頭にシンガポールを創設したイギリス人の名を冠したクラシックなホテルである。今はもう建て替えられて以前の面影はないが、私が泊まった頃は昔ながらのコロニアル風の風情ある建物であった。
ホテルに着いてみて、いたく気に入ったのは、その正面に植えてあった「旅人の木(学名:Ravenala madagascariensis)」である。全体は、扇を展開したというか、孔雀がその羽を広げたような形をしている。構成する葉は、一本一本が、まるで櫂のような形をしていて実に美しい。下の写真は、先月たまたま訪問したベトナムのホイアンのものであるが、このベトナム独特のランタンを除いて考えると、私が見たラッフルズ・ホテルの旅人の木は、まあこういう雰囲気であった。
下の写真は、新宿御苑の大温室の中にある旅人の木である。東京で旅人の木を見るには、これが最も見に行きやすいところにあると思う。ただし、この木を人の手のひら(パーム)に例えるとすると、パームの開き方がまだまだ足りない。本来ならこんな程度ではなく、少なくとも上の写真の程度には、左右に大きく広がるはずである。
熱帯の植物の中では、蘭(カトレア、パフィオペディラムなど。次の写真)、睡蓮、ハイビスカス、ブーゲンビリア、ヘリコニア、アンスリウムなど色鮮やかな花が多くて、私はいずれも大好きだが、花ではなくて植物そのものの姿の美しさとしては、この旅人の木に勝るものはないと思っている。
ちなみに、なぜ旅人の木(Traveler's Palm)というのかと現地の人に聞いたら、(第1説)喉が渇いた旅人が、この木を見つけてその幹に傷を付けてそこから湧き出る水が飲めるからだという人が多かったが、そうではなくて(第2説)この木の扇は東西に広がるので方向がわかるからだという人も僅かながらいた。でも、近接したところにあった数本を私がじっくり観察したところでは、かならずしも扇の方向が一致しているとは思えなかった。だから、第1説が有力だと考えている。
その旅人の木の種がこの青いものというのも、なかなか信じ難い話ではあるが、インターネットを見ると、現にこの種を植えていたのだから、間違いない。それにしても、どこが原産地なのだろうかと思ったら、学名に現れている通り、マダガスカルだった。マダガスカル島はインド大陸とアフリカ大陸に挟まれていた部分が恐竜の絶滅の頃に分離して、今に至っている。だから、動物ではキツネザル、植物ではバオバブの木など、他に類を見ないものが多い。旅人の木も、そういうものだったのだろう。それにしても、青い種とは、変わっている。
板橋熱帯環境植物館( 写 真 )
(2019年1月14日記)
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