徒然297.「bed」の意味
2018.08.23 Thursday | by 悠々人生
あるとき、妙齢の日本人女性が、空港からタクシーに乗り込んだ。そして、いきなり曰く「I want to go to bed.」
その運転手は、心底たまげて「be...bed?」と聞き返したそうだ。するとその女性は、「Yeah! I wanna bed.」という。運転手は、まさかと思ってバックミラー越しにその女性を見ると、多少の怒りが加わってか、妙に色っぽく見えた。
運転手は、あるいは本当かと思うようにもなったが、やはりまさかと思って、「Which hotel are you going?」と聞くと、ますますご機嫌を損ねたようで、「I said “bed”.」と言われてしまった。
いや、これは困ったと思った運転手は、地図はあるかと尋ねたら、ハンドバックの中を探し始めた。しばらく経って、クシャクシャになった紙を出してきた。それにはシンガポールの地図が描かれていて、「Bedok(ベドック)」に、赤い丸が打たれていたそうな。
ちなみに、ベドックは、チャンギ空港からほど近いところで、大型ショッピングモールや駐在員用のコンドミニアムが多くあるベッドタウンである。元は、水源地があったところだ。全く知らない人のこととはいえ、同胞の話であるから、顔が赤くなる思いであるが、英語の発音には気をつける必要があるという一例である。
2. 話は変わるが、昔々、やはり「bed」の話で、赤面したことがある。職場関係の研修所で、夜間に泊まり込んで、英語の授業を受ける機会に恵まれた。受講生は男女を交えて10人ほどで、講師はやや皮肉屋のイギリス人である。
その晩の授業が終わり、まず、男性の受講生が立ち上がり、礼を言って教室から出ようとした。次に女性の受講生も同じようにしたので、講師が、「これからどうするの?」と気楽に尋ねた。
するとその女性は、「I’m going to bed. 」と答えたので、私は「ああ、教科書通り言ってしまった。」と、恥ずかしくなった。講師の方を見ると、これまたびっくりしたようで、固まっている。後から聞いてみると、やはり「この二人は出来ているのか」と思ったそうだ。
確かに我々が中学生の頃に習った英語の教科書には、「I’m going to bed. 」というのは、単に「これから部屋で寝ます。」という程度の意味しかなかった。しかしその表現が確立してから時が経ち、話すシチュエーションによっては、そんな単純な意味ではなくなったのである。
3. また話は変わるが、同じようなことが、私が高校時代に習った「土砂降りの雨」を表す「It rains cats and dogs.」という表現にも見受けられる。その時は、「猫や犬がなんで土砂降りと関係あるんだ?」と思わないわけでもなかったが、何しろ教科書にも載っている表現だからと丸暗記した。
ところが、今時、アメリカ人にこんな表現を言っても、ポカンとするばかりである。それもそのはずで、これはアメリカ開拓時代の言い方なのである。当時のアメリカでは、屋根は粗末な板敷で、天井には家畜の餌の藁が置いてあり、しばしばそこに犬や猫が隠れていた。それが、大雨が降って屋根板に激しく打ち付けると、びっくりして天井から落ちて来たそうな。だから、こういう表現が出来たそうだ。
そういうわけで、言葉というのは、そのときの時代背景や人々の感覚によって、いかようにでも変化していくものである。だから私も、「聞くのは一瞬の恥、聞かぬは一生の恥」という精神で、これからも英語に立ち向かっていきたい。
(2018年8月22日記)