抹茶ビールとお茶料理

抹茶ビール


 御茶ノ水に、龍名館というホテルがある。創業が1899年というから、もう117年も経っている老舗旅館だそうな。御茶ノ水の本店のほか、八重洲にも同名のホテルを有し、花ごよみという日本料理店も出しているという。それはともかく、私は上京して40年以上にもなるのに、つい最近、抹茶ビールなるものを知るまでは、その名前すら知らなかった。

 事の起こりは、そろそろ年の暮れが近づき、日頃お世話になっている秘書さんたちや運転手さんに、美味しくて、珍しいものを食べたり飲んだりするのに連れて行けるような、何処か良いレストランはないかと思っていたときのことである。あるネット上の記事(確か、東洋経済)が、ふと目にとまった。「グリーンティーレストラン1899お茶の水」というのが最近できて、抹茶ビールなるものを提供して、連日大賑わいだそうだ。それは、「爽やかな抹茶の苦みがビール特有のクセを消すのか、女性など、ビールが苦手な人でも飲みやすい、と好評。サントリーのザ・プレミアム・モルツをベースに、抹茶を独自の方法でブレンドしたもの」だという。

 今回一緒に行くチームの中には女性もいるし、これは良さそうだ。私はといえば、せっかくダイエットに成功したばかりなので、もう二度と太りたくないから、あまりアルコールを飲みたくない。でも、抹茶を味わうビールを1杯くらいなら、罪は軽い。それに、このレストランでは、ビールだけでなく、抹茶をベースにした各種のお茶料理も出してくれるらしい。よし、それでは、ここに行ってみようということにした。一緒に行く皆さんも、それぞれ興味津々で、その日を迎えた。

 店の左手の奥の席に案内された。奥のカウンターの前である。早速、皆で抹茶ビールを頼む。一口ゴクリと飲んだ・・・あれあれ・・・普通のビールの味だ。もっと、抹茶の味がするのかと思っていたら、これは予想外だった。後から、抹茶の黒ビールを注文した男性陣に聞いてみたら、こちらの方が、もっと抹茶の味がするそうだ。飲むなら、この黒ビールの方がお勧めである。ただし、私はビールは1杯と決めているので、まだ飲んでいない。次回の楽しみに取っておこう。近くのカウンターにいた店員のお兄さんに、「このビール、抹茶の味がすっかり溶け込んでいるね。」というと、「ええ、そうなんですよ。特許を取っているから、造り方は秘密です。」などと、笑顔で答えてくれる。でも、特許を取ったのなら、技術は公開しているはずなんだけど・・・と思いながら、どうでも良いことだから、この際やり過ごす。

 さて、メニューを見て、料理は、いずれもお茶をテーマにしている。その中でも、これは良さそうに思ったものから、最初に一挙に注文した。それが、次々に運ばれてきた。 (1) 旬魚のカルパッチョ、(2) まぐろステーキ 玉露の香り、(3) 旬魚の炙り刺し、(4) 10種の野菜 茶〜ニャカウダ・グリル、(5) 石焼ステーキ、(6) 牛すじ煮込み、(7) 焦がしご飯のお茶漬け鮪、(8) ちゃそばちゃ〜ゆ添えなどである。

 このうち、4人全員が美味しいと太鼓判を押したのは、(2) まぐろステーキ 玉露の香りと、(6) 牛すじ煮込みである。特に、(6) 牛すじ煮込みは、トロリとしつつ、とってもコクがある。皆が気に入ったわけだ。3人が美味しいと言ったのは、(5) 石焼ステーキである。抹茶のタレが何とも味わいがあった。これが苦手な人は、ダメかもしれない。なお、ビールだけでなく、カベルネ・ソーヴィニオンやピノ・ノワールなどのワインも、とても美味しいものだった。やや弁解になるが、ポリフェノールを補給という名目で、私も飲んでみたが、特に前者は、まろやかでコクがあった。



 (1) 旬魚のカルパッチョ

 (1) 旬魚のカルパッチョ



 (2) まぐろステーキ 玉露の香り

まぐろステーキ 玉露の香り



 (3) 旬魚の炙り刺し

(3) 旬魚の炙り刺し



 (4) 10種の野菜 茶〜ニャカウダ・グリル

(4) 10種の野菜 茶〜ニャカウダ・グリル


(4) 10種の野菜 茶〜ニャカウダ・グリル


(4) 10種の野菜 茶〜ニャカウダ・グリル



 (5) 石焼ステーキ

(5) 石焼ステーキ



 (6) 牛すじ煮込み

(6) 牛すじ煮込み



 (7) 焦がしご飯のお茶漬け鮪

(7) 焦がしご飯のお茶漬け鮪


(7) 焦がしご飯のお茶漬け鮪






(2016年12月16日記)


カテゴリ:エッセイ | 20:27 | - | - | - |
不動産価格は摩訶不思議

東京ガーデンテラス紀尾井町にて


 最近、東京の私の家の近くで、マンションの一室の売出しがあった。そのマンション自体は、築20年の古い建物で、もはや中古もいいところなのであるが、この売出し価格のチラシを見て、思わず目を疑った。48m2で、なんと4,480万円なのである。地方都市にある私の実家近くでは、80坪の一軒家が買える値段だ。確かにこのマンションは、地下鉄の駅から2分、その間に都市銀行のATMと大手コンビニがあり、並びに郵便局、裏手に保育園と小学校、交差点を渡れば中堅スーパーの店舗その他、飲食店は数多い。地下鉄に乗れば、主要企業の本店が集まる大手町駅まで5分と、ロケーションに恵まれている。その反面、東京でも下町の外れの一角に位置するから、最新のトレンドやらおしゃれなるものには全く無縁で、青山、恵比寿、六本木、白金など東京の最先端地域のファッショナブルな華やかさには、全然及ばない。それどころか、路地の道端には猫が日向ぼっこし、巣鴨ほどではないにしても、おじいさんとおばあさんがやたらと目立つ町なのである。それでいて、しかも48m2という手狭さで、青山並みの値段が付いているのは、どうにも腑に落ちない。

 4年前にこの部屋が売りに出されたときのパンフレットがとってあったので、それをバインダーから引っ張り出して見たところ、2,780万円とある。やっぱりね・・・これが私の頭の中の常識的な値段だ・・・それより、1,700万円も高いとは、一体全体どうなっているのだろう。今回のパンフレットによれば、完全なリノベーションをしたそうだが、それで部屋の値段が6割も上がるものなのか、どう考えても分からない。これは、見に行くほかないとばかりに、家内と一緒に見学に行ってみたのである。


赤坂プリンス・クラシックハウスにて


 部屋には、まだ20歳代後半ぐらいの不動産屋の担当者がいて、案内してくれた。2LDKの構造で、確かに、玄関、トイレ、浴室、廊下、部屋、台所、壁紙と、全てが新しくなっている。これだけを見ると、新築そのものだ。まず玄関には、靴の収納棚が備え付けであり、それが天井まで達している。靴の数が多い女性に配慮しているのだろう。トイレは、ゆったりと座れる。驚いたのは浴室で、通常のユニットバスではなく、焦げ茶色のパネルに囲まれ、しかもそれが浮き出るようになっているから、いかにも高級感が溢れている。廊下から2つの部屋までは平らのバリアフリーで、板敷き、つまりフローリングである。それも、よくある幅の狭い板ではなく、その3倍ほどもある幅広の板だから、部屋の狭さを感じない。台所はガスレンジと洗い場だが、その下の引き出しを引っ張ると、食洗器が出てきたから、驚いた。最近はこういう備え付けが普通なのかもしれないが、我々の時代にはなかった。その他、洋服ダンスを買う必要がないくらいの収納スペースが設けられている。ただ、床暖房は設置されていないようだ。なるほど、これだと改装費用が少なくとも500万円はかかったと思われる。それでも、元の価格と合わせて3,300万円だから、売出し価格と1,200万円もの差がある。

 担当者に私が、「リフォームは素晴らしいのですが、それを織り込んでも、率直に言って、売出し価格が1,200万円ほど高いのではないか」と聞いた。すると、「東京オリンピックもあって、不動産価格は値上がりの傾向にあります。またここは、近くに何でもあって、大手町にも近い。この便利さから、ある程度お高くなるのは、仕方ないですね。」とのたまう。私が「毎月16万円で貸すとして、管理費と修繕積立金で月2万円、これに加えて修理や賃料未払に備え月2万円をとっておくとすると、毎月の収入は12万円となる。そうすると年間収入は144万円、4,480万円の回収に31年もかかりますね。せいぜい、20年でしょう。」というと、しどろもどろになって、結局、「200万円から300万円は値引きしますから。」と言い、それでも足りないと思ったのか、私が礼を言って靴を履いて出て行こうとすると、「いや、上司と相談して500万円は引きます。」とまで言っていた。こんなに引いてよいものか・・・まるで東南アジアで買い物をしているようだ。どうも、日本の不動産価格の値決めは、摩訶不思議としか言いようがない。

 ともあれ、500万円の値引きを間に受けると、3,980万円ということになる。それでも高い。もっとも、担当者の言い値で投資をするとすれば、登記費用等を捨象するとして3,980万円の年率利回りは、3.6%になる。現在の定期預金金利が0.01%であることを考えると、これは預金では望むべくもない水準であることは確かである。定年後の副業に不動産業という選択肢も、あるかもしれない。定年後の東京での生活費に月38万円が必要だとすると、年金が25万円、そしてこの12万円があれば、合計でちょうどそのあたりの額になる。しかし、美味しい話には、裏がある。テナントが善い人ばかりとは限らないから、不払いなど面倒なことに巻き込まれるおそれもある。そうなると、この机上の計算は成り立たない。それだけの金額を持っているなら、投資信託で運用して、円レートの変動でハラハラしている方が、老人としての身の丈に合っているのかもしれない。




(2016年12月15日記)


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