先週の日曜日は初孫ちゃんと2人で遠足をし、東京の西にある昭和記念公園に行ったばかりであるが、今週の日曜日はそれでは東京の東にある葛西臨海公園に行ってみた。葛西臨海水族館には2年前にも行ったことがあるので、行き方はわかっているつもりである。しかし、我が家からどうやって行くのが合理的かを改めて時刻表アプリで検索してみた。そうすると、以下の3ルートには若干の運賃の差はあるものの、驚いたことに、その所要時間はいずれも47分と出た。
(1) 我が家(千代田線)→日比谷駅で日比谷線乗換え→八丁堀駅で武蔵野線(京葉線)乗換え→葛西臨海公園駅(運賃計320円)
(2) 我が家(千代田線)→日比谷駅で有楽町線有楽町駅乗換え→新木場駅で武蔵野線(京葉線)乗換え→葛西臨海公園駅(運賃計380円)
(3) 我が家(千代田線)→大手町駅で丸の内線乗換え→東京駅で武蔵野線(京葉線)乗換え→葛西臨海公園駅(運賃計370円)
これを比較すると、要するにどの駅で武蔵野線(京葉線)乗り換えるかということに尽きる。ただ、この手の時刻表アプリでは出て来ない重要な要素として、乗り換え位置の問題がある。たとえば、(2) 新木場駅ルートの欠点は、日比谷駅で有楽町線有楽町駅に乗り換えるところで、かなりの距離がある上に、階段を上がったり下がったりで、こんなところを4歳の子の手を引いて行く気はしない。(3) 東京駅ルートも、大手町駅で丸の内線乗換えというところが狭い通路を延々と歩く必要がある。その点、(1) 八丁堀駅ルートというのは、思いつかなかった。別途の構内図を参照すると、この方が日比谷駅でも八丁堀駅でもはるかに乗換えやすい。そこで、このルートにして実際に行ってみたら、子連れにとっては非常に楽だった。この場合はたまたま運賃の関係で最安値が最適ルートではあったが、やはり時刻表アプリというのは、あまり鵜呑みにしてはいけないが、役に立つこともあるという見本である。
それはともかく、初孫ちゃんも、海が見られるということそれだけで、もう最初からルンルン気分。上機嫌で、電車に乗った。途中、武蔵野線(京葉線)に乗ったところ、「これは、ディズニーシーに行く電車だよー」という。なぜ知っているのかと聞いたら、親とともにディズニーシーの年間パスポートを持っていて、いつも通っているルートらしい。よく聞くと、(2) 新木場駅ルートの日比谷駅で有楽町線有楽町駅乗換えて行っているという。おやおや、これは知らなかった。
葛西臨海公園駅に着いた。駅前に噴水があり、小さな虹が見えて、初孫ちゃんがそれをじっと眺めている。そして、
「ねえ、どうして虹が見えるの?」と聞いてきた。以前も、日比谷公園の大噴水の虹について聞かれたことがあったなぁ・・・「お日様の光が、水しぶきに当たって7つの色に分かれたんだよ」と答えておいた。その駅前の噴水の向こうには、大観覧車が見えた。さて、駅前から海に向けて歩き出した。初孫ちゃんが
「あっ、鯉のぼりだ」と叫んだ。なるほど、道の向こうの方にいくつか鯉のぼりがぶら下がっている。横一線に張られたロープにまるで目刺しのようにぶら下げられている。そのうちの何匹かは、風でロープを一周してしまったかのようで、痛々しい。これは、ロープを緩めて地面に下ろさないと直せないだろう。
歩いて行って、パーク・トレインの停留所のところに出た。あと5分で出発だという。満員に近いが、何とか2人で乗ることが出来た。ガタガタガタ、ジョリジョリジョリという騒音を立てながら、トレインは走り出した。係員の方が手を振り、初孫ちゃんもそれに答えて手を振った。そして
「この電車、うるさいね」などと生意気なことをいう。確かに、耳障りなうるさい音を立てる。整備が悪いのか、それとも機材そのものが古くなってしまっているのかだろう。公園内を一周するから、どこに何があるのかがよくわかる。海が見えた瞬間、初孫ちゃんが降りたがったが、都バスのような停止ボタンはないし、はてどうしたものかと思っていたら、どうやら止まりたいところで手を上げれば、最後尾にいる車掌さんが世話をしてくれるらしい。
それで結局、かなり行った後で大観覧車近くの停留所で降りた。さてここから海にどうやって行こうかと考えながら歩いていると、色とりどりの花が丘いっぱいに咲いているところに出た。いやこれは壮観だ。初孫ちゃんと一瞬、その非現実的風景に見とれる。咲いている花の色は主に赤だが、ピンクや紫がある。赤やピンクは、ケシ科のポピーの花だ。赤いお椀のような花びらの真ん中にやや妖しい雄蕊や雌蕊がある。これが咲くまでの緑の蕾がまた、ひげが生えていてなかなか妖しい雰囲気を持っている。私が写真を撮っていると、ひとつひとつの花には全く興味がない初孫ちゃんがどんどん行ってしまうので、十分に撮れなかったのが、いささか心残りである。
そうやって2人で進んでいくと、思わず淡水の池に出たのである。しかもそこに、ピンクの美しい睡蓮が咲いていた。その周囲に大きな本物の鯉がいて、初孫ちゃんは、パンくずをやりたがった。幸い、ママお手製のパンが手元にあったので、それをあげると、初孫ちゃんは喜んで池の中に投じた。全長80センチはあろうかと思われる大きな鯉が近づいてきて、パンをガボッと音を立てて飲み込む。すごい迫力だ。それを喜んだ初孫ちゃん、全身をエビのように反らせて、パンのかけらを投げ込む。それがはるかに遠くに着水した。いつの間にこんな投げ方を覚えたのかと思うほどである。それをひとしきりやっていたが、いよいよ我々が食べるパンがなくなりそうだという段になり、何とか止めてもらった。
その池を過ぎていくと、バーベーキュー広場に出た。初孫ちゃんは興味深々で焼いているところを見ている。こんなものを見るのは、初体験だから面白かったのだろう。欲しがる前に、あわててそこを通り過ぎた。すると、いよいよ海である。広々として、波打つ海面がきらきらと輝いている。初孫ちゃんは、その海を見た瞬間、両手を上げて喜ぶ。さんざん歩いた後のことだから、嬉しかったらしい。それで急に海に向けて走り出した。かなりの速さで、追いつくのが大変だ。私がハアハア、ゼイゼイと追いついたのを尻目に、海中に築かれた護岸の大きな岩の上を行き出した。危ない危ないなどとあまり口煩く言うと小粒な人間になりかねないので、よほど危険な場合を除いて、細かいことは言わないことにしている。案の定、足を滑らせかけたが、自分で踏みとどまった。結構、結構。男の子には、こういうちょっとした冒険が必要だ。そうこうしているうちに、その辺で拾った石を投げ始めた。そこで初めて、「周りに人がいないことを確かめてね」と声を掛けた。本人は、「うん」と頷いて、黙々と石拾いと投擲にいそしんでいる。
やがてその石投げスポットにも投げる材料がなくなり、移動することにした。そこでこの際、「あっちのなぎさの浜に行かない?」と聞き、それはどこだという顔をしたので、対岸を指さした。
「うん、行こう」と短く答えたので、2人で葛西渚橋を渡って西なぎさに行った。白い三角屋根のテントがあったので中を覗くと、潮干狩りの人用の足洗い場である。そういえば、たまたま行った時間が引き潮のときで、砂浜が露出していて、たくさんの人が熊手を持って掘っている。初孫ちゃんが
「あれは、何をしているの?」というから「この間、グランマがアサリの味噌汁を作ってくれたでしょ。あのアサリという貝を探しているのだよ」と教えた。
「ぼくもやりたい」というのかと思ったが、そうはならなかったので、ややほっとした。
その辺りを散策し、そのうち砂浜を駆け巡り始めた。さきほどのテントやトイレの他には見渡す限り何もさえぎる物もないし、もちろん車や自転車もないから走り回る子供を見守るには便利なところだ。しかし、かんかん照りのお日様の下なのに、よくこれほどまでに元気なものだと感心してしまった。それに引き替え、いやもうこちらは脱水気味で、お腹も空いてきて、グロッキー気味になった。そこで、初孫ちゃんが私のところに戻ってきたときに「お昼を食べない?」と聞くと、あっさりOKした。
それで、潮風の広場まで戻ってベンチに座り、ママお手製のパンをかじり、桃のジュースとラフランス(西洋梨)のジュースを飲んだ。特にこのラフランスのジュースは、実は果汁20%のゼリーで、駅の自動販売機で300ミリリットルのボトル入りとなっている。何しろゼリーだから、キャップを開けて飲もうとしても、そのままでは出て来ない。キャップを占めた状態で10回ほど振れと注意書きにある通り、簡単には飲めない。初孫ちゃんはかえってそれが面白いらしくて、振っては飲み、振っては飲みを繰り返し、とうとう飲み干してしまった。
そこで、初孫ちゃんに問うた「大観覧車に行くか、それとも水族館に行くか、どっちがいい?」。すると、案に相違して
「水族館がいい!」と言ったので、展望台の建物の脇を通って葛西臨海水族館に行った。入場料を支払い階段を上がっていくと、いつものガラス製の丸いドームが現れる。前回来たときは、曇り空のせいかあまり美しいとは思わなかったが、この日は快晴の青空のおかげで、その中にすっくと立つ丸いドームはどこまでも美しかった。また、ドームの手前にある池も、水をたたえて誠に綺麗で、その向こうにまるで3隻のヨットのように見える白いテントの上部と良くマッチしていた。
丸いドームの地下に降りていって水族館に入ったが、こちらの呼び物はクロマグロの大水槽だ。たくさんのクロマグロがいたが、近畿大学の水産研がこの完全養殖に成功したことを思い出した。ぐるぐる回る速度は速いなと思ったら、最高で時速160キロも出るそうだ。しかも、そうした高速の回遊をしないと窒息して死んでしまうと聞いたことがある。そういうことを初孫ちゃんに説明しようとしたら、あれあれ
「ねぇ、暗い所から早く出ようよ」と言う。トンネル状の暗い場所は嫌いなようだ。それに続く熱帯の海などを見たいのに、さっさと手を引っ張られてドームの中の上階に出た。そこは明るい。しかも、その上に階段があって、各水槽の上を見下ろすような造りになっている。しかもあまり人がいない。初孫ちゃんは急に別人のように生き生きとして、その階段や渡り廊下のようなところを走り回り始めた。いやはや、元気だ。
そこを出て、併設のレストランに入る。見本を見て「何を食べる?」と聞くと、マンゴープリンだそうだ。では私は、抹茶プリンにした。それらをプレートに乗せて席に座り、スプーンを握ると、ニコーッとして、実に嬉しそうな笑みを浮かべる。そして、マンゴープリンの上に乗っている白いクリームを食べ始めた。それだけでは足らずに、私の抹茶プリンの上に乗っているクリームも欲しいという。やれやれと思ってあげると、それも勢いよくぺろりと平らげてしまった。
そのレストランから出てテラスに行くと、初孫ちゃんは、その開けた空間でまた高速回遊を始めた。この暑い気候であまり元気に走り回られて熱射病になっても困るので、適当に切り上げてペンギン舎に行き、「この中に(2012年3月に)逃げ出したフンボルトペンギンがいるんだよ」と説明した。初孫ちゃんは、あまりピンと来ていない様子だ。それで、屋外の水辺の自然を見て、帰ろうとしたら、初孫ちゃんが聞いてきた。
「さあ、イルカのショーを見に行こうよ。あの、水がザブーンと掛かるの」。確かに、エプソン水族館や品川水族館には、いるかのショーがある。しかし、この葛西臨海水族館には、そういう展示はない。そんなことを説明したら、いささか物足りなさそうだった。それを期に、家路につくことにした。帰る途中に案の定、電車の中で
「抱っこ」と言われて、腕の筋肉の訓練をさせられた。そのときは何ともなかったが、翌朝、起きたら両手と両肩が痛かった。
(2013年 5月12日記)