幼稚園からのお便り(2)

「さくらぽっぷ」さんイラスト



 最近、休日になると、しばしば娘の家に出かけ、両親が仕事で留守の間に家内やシッターさんと一緒に、初孫ちゃんのお相手を務めることがある。そうすると、いやはやもう・・・この子といったら・・・家の中を目まぐるしく動き回り走り回り、歌い踊り、ボールを蹴り、ごっこ遊びをし、時には横たわっている私の腰の上からジャンプする狼藉を働いたりと、一時たりともじっとしていない。昔だったら、「これ、落ち着きなさい」とでも言うところだが、子供というのは遊ぶことが成長する上でとても重要なことだと思うから、せっかく楽しく遊んでいるのに、それを大人が止めてはいけないと考え、敢えて好きなようにさせている。ひと昔前の子育てなら「躾がなっていない」などと言われそうだ。しかし、さすがに私のところへ来て私を蹴るような仕草をしたときには、「これ、それはダメだよ」などと言うと、そこは初々しい幼稚園児らしく「うぇーん」と泣き崩れてしまう。これを見て、これで結構この子は繊細なんだという気が改めてしたりもする。まあいずれにせよ、あまりに礼を失していたり、あるいは危なかったりする場合はしっかり注意するけれど、基本的には放任しているから、本人は好き放題やり放題という有り様だ。しかし、この4歳になるかならないかという年頃は、何にでも興味を示して身の回りを理解しようとする時期なので、基本的にはやりたいようにやらせる、そういう方針で良いと思っている。現に日常の遊びを通じて、みるみるうちに知識と能力が一段と向上していることがよくわかる。そうした中で、初孫ちゃんが通っているインターナショナルスクールの幼稚園から2学期の「お便り」をいただいた。前回のものは大層面白かったが、今回のものには何が書かれているのか、読むのが楽しみだ。


1.社会性と感情の発達

 この子は、引き続き今学期にも大きく成長しました。その意見を言うにしても、また何をしたいかということについても、常に自分の意思を通します。自分でいったん決めたことについては自信があるから、決して他の子に従おうとはしません。また、自分が出来ることについて非常に誇りに思っていて、よく友達や先生に対して、自分で作ったそのたびに違うペーパー・クラフトや書いたものを見せてくれます。それに、おもちゃを替わりばんこに使ったり順番を待ったりすることが出来るようになりました。友達と何か揉め事が起こると、この子はそれについて話しをしたり、皆が満足するようにと、その解決の道(普通は、一緒に遊ぶこと)を考えようとすることが出来るようになりました。それに、ユーモアのセンスがあって、面白い冗談や友達を笑わすお馬鹿な話が好きです。


   SOCIAL & EMOTOINAL DEVELOPMENT
He has continued to show positive growth this term. He is always very independent in both his opinions and in what he wants to do. He does not follow friends as he has confidence in his own decision making. He is always very proud of what he can do, often showing friends and teachers different paper crafts or writing that he has done by himself. He is improving in his ability to share toys and take turns. When there are conflicts, he can talk about the problem and try to think of solution (usually play together) to make everyone happy. He has a great sense of humor as he loves to tell funny jokes and be silly to make his friends laugh.



 全くその通りである。初孫ちゃんは、しっかりと自分の意見を持っている。先日は道を歩いていて、この子が「アリさんがいっぱい近づいてきたから、踏んづけちゃった」というので、「そんなことをしたら、蟻さんが可哀相だよ」というと、えーっ、アリさんは踏んづけちゃえばいいんだよ」と言って譲らない。確かに自説を曲げないところがある。色々な子供を見て来たベテラン・シッターさんが言うには、「この年頃の少し前から第一反抗期と言って、大人の言うことをきかないことが多いのですが、この子の場合はそれに加えて、日本の幼稚園に通っている子とは少し違うところがあります。というのは、インターの幼稚園は、日本の幼稚園と違ってあれはいけない、これはいけないなどということを言わず、またみんなと同じことをするのを強制するようなことは決してしませんから、子供がその分、伸び伸びというか、見方によっては勝手気ままにやることを自然と認めているようなところがあって、その影響も出ている気がします」という。

 確かに、自分の考え方に自信があるようで、いつでもそれを主張している。幼稚園でも、親友のVくんとよく言い合いをするようなことがあるそうだが、先生は日本の幼稚園のように「まあまあ、2人とも仲良く」などとは言わないで、放っておいて、そのたびに自分たちで話し合いをさせて解決させるようだ。なるほど、これが国際標準というものではないかと思い当った。相手の国や会社に悪いから、いちいち議論するのはよそうなどといういかにも日本的なことをやっていては、国際紛争など解決できるものではないし、会社の交渉事がうまくいくはずもない。

 この年頃から、こういうディベートや理屈を考える訓練を積むことは非常に大事なことである。私も、自分の考えをなるべく押し付けないで、こちらから問うたり方針を聞くようにしている。たとえば「こういうのをしようとしているのだけれど、どう思う?」と聞くと、それは・・・だから・・・した方がいいよ」などと明快に答えてくれる。もちろんそれは、子供らしい見方であるが、その反面、こちらがはっとするほど鋭い見方をしているときもある。危ないときには「そんなことをすると、これこれこうなって、危ないよ」と理詰めで説明すると、ああそうかという顔をしている。ただし、眠いときなど、ご機嫌が斜めのときには、なかなか言うことを聞かないときも多い。


2.知性の発達

 この子は、大変な知性を示し、学習することを楽しんでいます。特に読むことについては才能があり、実際にとても良い言葉で読めるので、これによって多くの友達に対し、もっと自分も読めるようになりたいという刺激を与えてくれました。また今学期は、特に音楽がとても好きになり、ピアノとキーボードに大変興味を示しましたし、音楽に合わせて歌ったり踊ったりすることを楽しんでいました。またこの子は、感覚を使う活動が好きで、とりわけ水で遊ぶのが好きです。トイレの水ですら遊んでしまうのです。ロール・プレイも大好きで、多くの友達と、これで遊んでいます。何かの役に扮するのも好きで、たとえばドクターやタクシーの運転手になりきり、想像を膨らませながら小道具をうまく使って演じています。建物も好きで、これは隠れ家とか、この幼稚園だとか、物語を語ってくれます。


   INTELLECUAL DEVELOPMENT
He continues to show great intellect and enjoys learning. He is particularly talented reading and he has inspired many friends to improve their reading skills, as he shows them how good he is at reading words. He has shown a great love for their music this term. He is very interested in the piano and keyboard, and also enjoys singing and dancing to music. He loves sensory activities and is especially excited to play with water. He even loves playing with water in the bathroom sink! He also enjoys role-playing and this is the activity he enjoys most with friends. He loves acting out parts and uses props well to aid his imagination as he pretends to be a doctor or a taxi driver. He also enjoys building and can tell stories what he is building ("This is hid house and this is a Kindergarden…").



 今日はクリスマス・イブだったので、プレゼントとしておもちゃメーカーのブリオ(BRIO)の赤と緑の機関車を持って行った。ちなみにレールの方は、既に一昨年のクリスマスに買ってあげている。今回はその上で動く機関車で、これを初孫ちゃんにうやうやしく進呈したところ、大喜びで包みを開けてくれた。これはもちろん電池で動くものだけれど、ブリオは外国メーカーだから日本の玩具の仕組みと違う構造を採用している。電池を入れるには、いちいち先頭の部分をドライバーで外さなければならない。これはおそらく電池を子供さんたちが誤飲しないように配慮しているからなのだろう。しかし、その分手間がかかるようになった。私が「あれ、ドライバーがないな」とつぶやくと、初孫ちゃんが、あそこにあるよ」と指差したので、そちらを見たら、本当にオレンジ色のドライバーが棚の高いところにあって、ビックリした。それを使って電池を入れて、「あれ、どこを触るんだろう」などと言って説明書探しをやっていたら、 この子が「こうするんだよ」と言ってボタンを適当に触ると、あら不思議、ちゃんと動いて音を出したり、バックまでしたりして、二度ビックリした。この子はなかなか勘が良い。

 また、このレポートにも書かれているとおり、最近は水に凝っている。それも、雨の日の公園の水たまりから、池、果てはトイレやお風呂のタブなど、水や湯にいろんなものを落として、その衝撃で跳ね上がる水しぶきや、その水面に広がる波紋、それから生ずる音を楽しんでいる。何かしら、とてもうれしいのだろう。危なくない限り、何かに熱中しているときは、心ゆくまで飽きるまで、させてあげることにしている。もちろん、急いでいる人や生活に追われている人は、そんな暇はないと思われるだろうが、大人が忍耐強くそのように配慮してあげると、子どもには集中力も付くし、またその子なりに物事の本質をつかめるようになるかもしれないと考えている。

3.身体能力の発達

 この子は、昼食時にしばしば動きまわることがあったのですが、今学期は比較的落ち着いて座っていることが多く、食事中の態度はかなり良くなりました。外に出ると非常に活発で、特に先生というモンスターから逃れるためあっという間に走っていくなど、走る遊びに夢中です。また彼は、ペーパー・クラフトにも夢中で、紙を丸めてそれをテープでとめるなどしています。自然が好きで、ドングリなどの実や木の枝を見つけて、それを水の中に投げ入れています。


   PHYSICAL DEVELOPMENT
He is showing improved eating habits during lunchtimes as he can sit better without moving around. He is very active outside as he loves playing running games, especially running away from the teacher monsters! He loves using his hands to make paper crafts, especially rolling up paper and taping it together.He enjoys exploring nature where he often finds berries, acorns or sticks that he collects or throws in the water!


 このレポートの通り、この子は食事中に立ったり座ったり、日本風にいうと誠に落ち着かない仕草をみせる。家で食事をするときなど、立ったり座ったり、歩き回ったりと、本当に落ち着かない。昔なら、「これこれ、ダメだよ」などと言って無理やり座らせようとしただろうが、幼児ならこんなものだと思い、両親も我々も諦めているし、経験豊富なシッターさんたちも、この年齢ではそういう態度が普通です」と言ってくれている。私と一緒にいるときのこと、お昼になったので、この子と喫茶店に入って何か注文して食べさせようとしたことがある。さすがにそういうときには、歩き回らずに椅子に座っていた。ところがミックスサンドを食べさせようとすると、卵とハムは食べるが、あとのものはいつもの「嫌だ!絶対に嫌だ!」を繰り返す。仕方がないので私がこれから食べようとしていたあんぱんをちょっとだけ、分け与え、「このサンドの野菜を食べたらまたあげる」というと、大きな口を開けて野菜に食いついた。よしよし、とりあえずうまくいったと思い、次に「トマトを食べたらまたあげる」というと、今度もトマトを一口食べ、その調子でアンパンの一部と引き換えに、ローストチキン、玉子、生ハムと、かなり食べてくれた。ふと見ると、私がまだ一口も食べていないあんぱんが、もうほとんどなくなっていた。これが良いのやら悪いのやらわからないが、その後も食欲が出たようでメロンパンにもかぶりついていたから、大人顔負けのボリュームを食べてくれた。そのたびごとに少しずつ飲ませていた水も、コップ一杯すべてを飲み干してしまった。大成功だ・・・ちょっと、私のお腹が空いたけれど・・・。

 その帰り、家のマンションの廊下は、ウナギの寝床と言われるくらいに長い。そこを「おじーさん、走ろうよ」と挑発してくる。負けられないと思い、「よし、駆けっこだ」と言って二人で手を繋いだまま、私は全力疾走する。この子も、最初は私よりも早いくらいだったが、やがてスタミナが切れたようで、だんだんスピードが落ちてくる。そこで「しばらく休もうか」というと、真っ赤になった頬を紅潮させながら、うんうんと頷く。とても満足そうだ。

 この幼稚園からのお便りにもあるが、最近では、紙を丸めてテープで止め、そういう筒をいっぱい作ってそれを繋ぎ合わせて天井まで届くようにしたり、束にして抱えていたり、ともかくそういう遊びが大好きだ。一心不乱にやっているといってもよい。どうかすると、私も手伝わされて、おじーさん、テープをちょっと持ってて」などと指示される。それから、ママに折り紙を教わったようで、それで手裏剣を作って遊んでいる。それがまた、小さい可愛いものから、テープで張り合わせて大きくした紙を折って作った自分の体くらいもあるような大きなものまで、小、中、大、巨大なサイズのものが居間の中に辺り狭しと散らばるようになっているから、すごい。よくこんなに次から次まで作り続けるものだと感心する。それを見て家内と二人で、「今日は建築家みたいだけれど、明日は何屋さんかね」などと笑いながら話している。家内が幼稚園に見に行ったとき、たまたまスポンジに緑の塗料を付けて何かに大きな筒に塗るという遊びをやっていて、最初はこの子も他の子と一緒におそるおそる塗り始めたそうな。そして、ああっ、指に塗料が付いたなどと顔をしかめていたのに、そのうち次第に夢中になって、両手が緑一色になるのも構わずに集中してその筒に塗料を塗りつけていた。家内がふと辺りを見回すと、他の子はみんな飽きて、どこかへ行ってしまい、この子だけがそうやっていたそうな。







  関 連 記 事
 初孫ちゃんの誕生
 初孫ちゃんは1歳
 初孫ちゃんは1歳4ヶ月
 初孫ちゃんは1歳6ヶ月
 初孫ちゃんもうすぐ2歳
 初孫ちゃんは2歳2ヶ月
 初孫ちゃんは3歳4ヶ月
 初孫ちゃんは3歳6ヶ月
 幼稚園からのお便り(1)
10  初孫ちゃんもうすぐ4歳
11  幼稚園からのお便り(2)
12  初孫ちゃん育爺奮闘記
13  初孫ちゃんは4歳3ヶ月
14  初孫ちゃんは4歳6ヶ月
15  孫と暮らす日々



(2012年12月28日記)

カテゴリ:エッセイ | 20:25 | - | - | - |
徒然265.スイッチのカバーが壊れた!

埋込パイロットスイッチB片切WN5241ネーム付



 ある朝、家の廊下を歩いていて、トイレのドアの下に透明なプラスチックの破片が転がっているのに気がついた。良く見ると、二つのピースに分かれていて、そのピースを併せてみると、一体の真四角で小さな窓のようなものになる。ただし、まだ少し欠けている破片がある。それを探そうと腰をかがめたところ「換気扇」と書かれた紙片も落ちていた。これらは何だろうと思って持ち上げ、電灯の光を透かして覗きこんだ。すると、それらはトイレの脇に二つ並んでいるスイッチの部品であるとわかった。その二つのうち上のスイッチはトイレの照明のものであるが、落ちていた破片はその下の方にある換気扇のスイッチの部品で、その上に被さっていたプラスチックのカバーではないか・・・。これは困ったと思ったが、そういえば、かなり昔にもこれと同じ部品が壊れたことがあって、渋谷の東急ハンズに買いに行ったことを思い出した。そのとき、これは確かホタルスイッチのキャップと呼ばれていた。そのときは何が何だかわからないうちに売り場に行ったらすぐに見つかり、そのキャップという部品を買って来て、むき出しとなっているスイッチの上に単にパチンとはめれば、それで修理終わりという簡単な作業で済んだ。もちろん、配線をさわるわけでもなく、単に表面的なカバーの取換えにすぎない。今回も、そうしよう。でも、渋谷の東急ハンズは駅から遠くて行きにくいので、今回は新宿の東急ハンズに買いに行くことにした。

 東急ハンズ6階に着き、照明の部品コーナーを見て回ると、あった、あった・・・似たような部品ばかりだ。たとえば、スイッチそのもの、そのスイッチ回りの金属の枠、そしてスイッチの表面の象牙色のプラスチックの板まである。でも、目指すその透明プラスチック部分がないなぁ・・・。あれれ・・・何かおかしい・・一体どこにあるのだろう。脇の棚にでもないかと探したのだが、やっぱりどこにもない。おかしいなぁ・・・昔は確かに売っていて簡単に見つかったのになぁと思いつつ、仕方がないので係の人に聞いたら、意外なことがわかった。その人いわく「あれについては、かなり注文ミスがあって返品が相次いだから、メーカーが怒ってしまって、それ以来その型番を言ってくれないと注文に応じてくれないんです。だから、すべてオーダーになります」という。やれやれ、面倒なことよ・・・「それでは、その型番はどうやって調べるんですか」と聞くと、「表のプラスチックのプレートを外せばいいんです。簡単ですよ」と言って、「こんな風にプレートを開けると、ここにあります。見るだけなら別に配線をいじるわけでもないから、電気工事業者に頼まなくとも、素人さんでも出来ますよ」と言いつつ、そのやり方まで教えてくれた。

 そこで、家に帰ってから、久しく使っていないドライバーを持ち出して、型番の判読をしようとした。教えられたとおりにまずプラスチックのプレートをはがし、そのプレートのプラスチック枠も取り外し、その下の金属製の枠まで外した。そうやってスイッチの脇が見えるように引き出した。ここまでは作業は難なく進み、鼻歌でも歌いたくなるほどだ。それでこの型番は、これは松下電工の製品で、WN5241ということがわかった。念のため、ネットで調べてみることにした。そうすると、松下電工はパナソニック電工となり、ついにはパナソニックに吸収されてしまってその完全子会社となったそうな。それはともかく、その電設資材総合カタログ(258p)には、確かに、埋込パイロットスイッチB 片切 WN5241 ネーム付というものがある。このキャップを買いにいけばよいのだ。

 と・・・ここまでは順調に物事が進んだのだが、ここで問題が発生した。その解体したスイッチを元に戻そうとしたとして最後の段階でプレートを取り付けたら、何と、二つのスイッチがプレートから1〜2ミリほど陥没してしまうではないか。ほんのわずかなことなのだけれど、指先がひっかかる気がして気持ちが悪い。これは困った・・・もう一度取り外して再びプレートを取り付けても、同じことだった。どうやらスイッチ部品が沈み込んでいるようで、何ともならない。なぜだ・・・何かの部品を付けるのを見落としたのかと思ってその直下を見渡したものの、何も発見できない。うぅむ、これには参った。もう一度外して、今度は中のスイッチの金属枠を緩めてみたが、それだと陥没はしないまでも、肝心かなめのスイッチそのものが緩んでしまってこのまま使うとグラグラして危ない。やむなく、元に戻した。

 仕方なく、そのままの状態で再び東急ハンズに行き、ともかくその壊れたキャップという透明なプラスチック部品を注文した。係の人に型番を告げたら、今度は注文書を書いてもらえた。それを覗きこむと、何と注文単価が52円ということになっている。これでは、入荷を知らせる電話代にもならない。本当に有難い会社である。ただし、入荷が何時になるかわからないから、期待しないで待っておれとのご宣託があった。そのとき、「スイッチを外して型番を確認し、元に戻そうとしたら、スイッチが沈み込んでしまった」と話したら、「それは下のボックスが沈んだのかもしれないから、そうだとすると配線に関わることだから、プロの工事業者にやってもらうしかないですね」と言われてしまった。

 中1日置いた次の日、東急ハンズから電話がかかってきて、もう入荷したとのこと。さっそく取りに行き、そのプラスチック片を受け取り、家に帰ってホタルスイッチの上にはめた。そうしたところ、パチンと心地良い音がして元に戻った。しかし、沈み込んだスイッチそのものは変わらないから、はてどうしたものか、困ったなぁと思っていた。そうこうしているうちに、翌朝、マンションの管理人と顔を合わせたので、相談してみた。すると、「明後日に管理会社から技術者が来るから、見てもらいましょう」という有難いことを請け負ってくれた。


モダンプレート2口用WN6002


 その日になった。約束通りその技術者と管理人がやってきて、家内が応対した。ひとしきり見た後で、その技術者曰く「冬だからプレートと枠が反り返って、こうなったのだと思われますから、そのプレート自体を交換すると良いですよ。型番はWN6002です。それくらいなら、誰にでも出来ますから」という。例の通りカタログを調べてみたところ、パナソニック電工のモダンプレート2口用WN6002というのがあった。そこで、それをまた東急ハンズ6階に行って買い求めた。これで東急ハンズ詣では3回目である。お値段は126円と、これもまた涙が出るほどに安く、有難いを通り越して、大丈夫かな心配するほどである。家に帰ってさっそくプレートとその枠を外し、新しいものに取り換えてみた。しかし、やはりスイッチ部分が2ミリほど埋まってしまって、うまくいかない。もう、こんなにがっかりしたことはない。近くの電気屋さんを呼ぼうかという弱気のひとつも出ないわけではないが、こんな仕事は配線やスイッチをいじるわけでもないから簡単すぎて申し訳ないくらいだ・・・まあしかし、こんなことで諦めてはいけない。

 付けたプレートと枠をもう一度外して、一体何が原因なのだろうかと、内部の金属の枠部分をよく見てみた。すると、正面からはなかなかわからなかったが、脇から見ると、その金属枠の下半分が内側へわずかに折れ曲がる形になっていることを発見した。ははぁ、これが原因ではないか・・・プレートを戻す時に力を入れ過ぎて少し歪んだのかもしれない。そこで、いささか強引だったかもしれないが、ペンチを出してきてその部分の反りを直してやった。最後にプレートをパチッとはめたところ、おお、やっとうまくいった。何でもそうだが、まずは観察が大事だというのがこの件での教訓である。原因がわからなくて当初はいささか疲れたが、ともあれ最終的には成功したので満足である。

 以前、アメリカの東海岸に住んでいた人の話を聞いたことがあるが、借りる家を探しに行って不動産屋が比較的新しい物件だと言っていたのが築100年ものであったらしい。ところが、そんなことで驚いてはいけないそうだ。古い家なものだから、次から次へと故障する。プロの修理工に来てもらえるのはいつになるかわからないので、自分で修理することになる。おかげでちょっとした作業なら何でも出来るようになったとのこと。そのときもうひとつ、びっくりしたことがあった。それは、トイレの排水管が壊れて、その部品を店に買いに行った。一見して古そうな部品で、建築当初のものではないかと思われるくらいである。そんな100年前の部品なんて今頃売っているのかどうかもわからないと思いつつ店に着いてその型番を言ったら、すぐに出てきたからもっと驚いたそうな。今回の私の家のスイッチの部品も、会社名は変わっても、型番を言えばすぐに入手できた。こういうことが文明国の証だと考えるが、どうであろうか。

 それにしてもどういうわけか、年末になると必ずといってよいほど、家の中のあちらこちらで、蛍光灯が切れるだのなんだのと、何やかやとこういう騒ぎがいくつか生ずる。不思議なものである。



(2012年12月20日記)


カテゴリ:徒然の記 | 22:46 | - | - | - |
徒然264.山中伸弥教授にノーベル賞

野田佳彦首相と握手するノーベル賞受賞者の山中伸哉教授。首相官邸HPより



 この徒然の記シリーズの069で人工多能性幹細胞(iPS細胞)の記事を書いてちょうど5年が経った2012年12月7日、その作出者の山中伸弥教授は、ストックホルムのカロリンスカ研究所においてノーベル生理学・医学賞受賞を受賞された。ジョン・ガードン博士との共同受賞であり、ガードン博士といえば50年前の山中教授が生まれたその年に、オタマジャクシを使って細胞核の初期化の分野を開拓した科学者である。これからもわかるように受賞までに何十年もかかることが普通といわれているノーベル賞であるのにもかわらず、山中教授の場合は最初のネズミの細胞を使った研究の発表から数えるとわずか6年目での受賞であり、本当に素晴らしいことである。それだけ世界の科学をリードする重要な成果だと認められたからであろう。心からお祝いを申し上げたい。

 新聞記事や受賞インタビューなどによると、山中伸弥教授の人生はかなり山あり谷ありというものだったらしい。中学高校では柔道、大学ではラクビーに打ち込んだが、怪我が多くて整形外科医を志した。ところがその怪我がかえって人生観を変え、「怪我というネガティブなことから人生の目標が出来、人生は塞翁が馬という古諺を意識するようになった・・・どう見ても手術が下手で、ほかの人なら30分で終わるところが2時間はかかり、『じゃまなか』と呼ばれた」そうな。そのときは自らのことを「挫折した外科医」と思っていたという。

 そこで、大阪市立大学大学院医学研究科に入学して研究者への道を歩み出した。1993年から3年間、サンフランシスコのグラッドストーン研究所に留学し、トーマス・イネラリティ博士のもとで研究を始めた。そのとき、所長の「Vision and Work Hard」という言葉が心に残った。それで基礎研究から臨床応用に結び付けるビジョンが大事だと思うようになったそうな。ところが95年に帰国してからは、大阪市立大学でまるでアシスタントのやるようなネズミの世話に追われる毎日で、悶々とした日々を送った。そんな中、奈良先端科学技術大学院大学で助教授の公募があった。それでだめだったら元の外科医に戻ろうと思って応募したところ、案に相違して採用され、助教授として研究室を持った。そこで「急に有名にはなれないが、夢とビジョンは示せると思い、皮膚の細胞を初期化して万能細胞にするビジョンを立てた」という。

 そして、実験を担当した高橋和利博士研究員に「うまくいかんのはわかっているが、どんなことになっても雇ってやるから、思う存分にやれ」と言って実験に踏み出した。2万個を超える遺伝子の中から当時明らかになっていた遺伝子データベースを使って初期化に必要な遺伝子を24個見つけ出した。それがどのように組み合わさって初期化するのかわからない中で、高橋博士はその中からひとつひとつ抜いていって実験し、初期化に必要な遺伝子を4個特定した。これがマウスでの実験で、2006年にその成果が発表された。それからちょうど1年後、ヒトの細胞でも成功し、今回のノーベル賞の受賞につながった。

 ただ、iPS細胞研究は、むしろこれからが本番を迎えることになる。ガン化を防止しながら健全な細胞を工業的に大量に作出する技術は、京都大学iPS細胞研究所を中心に出来上がりつつある。さらに一歩進んでこの成果を基礎として、iPS細胞から臓器や組織を作って難病研究や臨床応用を行っていくことが重要になる。

 しかしながら、さらにその先の話であるが、そもそも細胞中でこれら4個の遺伝子がどのように働いているから初期化が行われるのかというその仕組みが解明されないと、私などは落ち着かない気がする。山中教授がせっかくその4個の遺伝子を見つけたわけであるが、これらがどのようなタンパク質を作り出し、細胞の機能をいかにして制御しているのかが問題なのである。もっともそれは、細胞という生命体の物理的化学的な仕組みがわかっていないと、できない相談である。何百年も先のことだろうが、そういう時代がいつかは来そうな気がしている。

(2012年12月11日記)




[文部科学大臣談話]京都大学山中伸弥教授ノーベル生理学・医学賞受賞について

 京都大学山中伸弥教授が、本年のノーベル生理学・医学賞を受賞されましたことに心から敬意を表します。

 今回の受賞は、山中教授の「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」というほぼ無限に増殖する能力とあらゆる組織や臓器の細胞になりうる多能性を持った幹細胞の樹立に、世界で初めての成功した研究業績が高く評価されたものです。山中教授には、昨日7日に京都大学iPS細胞研究所を視察し、最新の研究成果について御説明を頂いたところです。山中教授の研究は、日進月歩で進んでおり、若手研究者が目を輝かせて仕事に打ち込んでおり、非常に感銘を受けました。

 この研究が更に発展し、一日も早く再生医療や創薬に貢献することを期待しています。今回の受賞は、我が国の研究水準の高さを世界に示すとともに、国民全体にとって大きな励みと誇りを与えるものです。この受賞を契機に、文部科学省としても、国際的にも注目される重要な研究に対し重点支援を行うとともに、研究環境の整備充実や若手研究者の育成など、研究支援を一層充実していく所存です。(平成24年10月8日)




 
[山中伸弥京都大教授のノーベル賞受賞記念講演の要旨](共同通信)


 【はじめに】

 五十年前、私の生まれた年に細胞核の初期化の分野を開拓したジョン・ガードン氏とノーベル医学生理学賞を受賞できることを光栄に思います。

 【研究者への道を歩み出した頃】

 整形外科医から基礎医学に転向した私は「予期せぬ結果」と「素晴らしい師」と出会えた二点でとても幸運でした。

 大阪市立大では、大学院生として三浦克之先生の指導のもと、三浦先生の仮説を確かめる実験をしました。血圧を下げないだろうと予想される物質を犬に投与したところ、予想に反して血圧が下がりました。驚いて三浦先生に報告したところ、自分の仮説が外れていたにもかかわらず一緒に喜び、研究を続けることを励ましてくれました。

 1993年に博士号を取得し、米グラッドストーン研究所のトーマス・イネラリティ博士のもとで研究を始めました。ここでも、イネラリティ博士の仮説を証明すべく、「APOBEC1遺伝子」を過剰に発現させると、コレステロール値が下がることを期待して実験しましたが、予想が外れ、この遺伝子が肝細胞がんに関わることが分かりました。しかしイネラリティ博士はその結果に興奮し、研究を続けることができました。

 私には二タイプの師がいます。一つ目は三浦先生やイネラリティ博士のような研究者としての師です。彼らのようになりたいけれど、なかなか苦戦しています。二つ目は、自然そのものです。自然は時に予想していなかったことを私に教えてくれ、新たなプロジェクトへとつながりました。

 【iPS細胞に至る研究】

 APOBEC1遺伝子の研究過程で、NAT1という遺伝子が見つかり、マウスの胚性幹細胞(ES細胞)にとって大切なことが分かりました。ES細胞にはほぼ無限に増殖する能力と、さまざまな細胞に分化する能力がありますが、NAT1は後者の多分化の能力に重要であることが分かりました。

 このころ、米国から日本に帰り「帰国後うつ」という病気にかかりました。マウスのES細胞の研究が患者さんの助けになるのか、研究の方向性について悩んでいましたが、二つの出来事によって回復しました。一つは、米国のジェームス・トムソン博士のヒトES細胞の樹立というニュースです。もう一つは99年、37歳の時に奈良先端科学技術大学院大で研究室を持ったことです。

 私は「受精卵からではなく、患者さん自身の体の細胞からES細胞のような幹細胞を作り出すこと」を研究室の長期目標として掲げることにしました。それまでに明らかにされていた研究の流れから、理論的には可能だと思っていました。

 20年、30年かかるか、あるいはそれ以上か見当もつきませんでしたが、2006年にはマウスで、07年には人でiPS細胞の樹立に成功。4つの因子で細胞核を初期化できることを示すことができました。

 この成功は私だけのものではなく、3人の若い科学者、高橋和利君、徳沢佳美さん、一阪朋子さんの努力なしには成し遂げられませんでした。また、iPS細胞に至る3つの道筋をつくった科学者たちにも感謝したいと思います。

 一つ目の道筋は、体細胞の核を卵に移植することによる体細胞の初期化研究の流れです。ガードン氏や多田高(たかし)京都大准教授らがこの流れで成果を挙げました。

 二つ目は、単一の転写因子によって細胞の運命を変えることを示した研究の流れ。三つ目は、ES細胞などの未分化細胞で多能性に重要な因子を同定する研究の流れです。

 【iPS細胞の可能性】

 私は京都大iPS細胞研究所の所長であり、グラッドストーン研究所の上席研究者でもあります。iPS細胞の応用には三つの可能性があり、その研究を推し進めています。

 一つ目は、患者さんからiPS細胞を作製し、それを患部の細胞に分化させ、病気を再現することで、病気の解明や薬剤の探索に活用することです。例えば筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんに体細胞を提供していただいてiPS細胞を作り、神経に分化させ、病気の状態を探る研究をiPS研究所の井上治久准教授が行っています。

 二つ目は、iPS細胞から分化させた細胞で薬の副作用を調べること、三つ目は再生医療です。

 今、新しい流れが出てきています。(iPS細胞を経ずに)細胞の種類を直接変える「ダイレクトリプログラミング」などで、近い将来、こうした研究者たちにもう一つノーベル賞を取ってほしい。



カテゴリ:徒然の記 | 07:12 | - | - | - |
初孫ちゃんもうすぐ4歳

「さくらぽっぷ」さんイラスト



 早いもので、我が家の宝である初孫ちゃんは。今月で4歳になる。それにしても、このほんの数ヵ月の間だけを見ても、心も頭も体も、本当に目覚ましい成長を見せている。好奇心の塊りで、新しいものを見ると触りたくなるから、我が家に来たらボタンというボタン、機械という機械、少しでも新規で珍奇なものを見つけると、触りまくってこね回す。「ああっ、危ない」と思うこともしょっちゅうで、一瞬たりとも目が離せない。その一方、情操面においても大変な進歩がある。たとえば、この子が遊んでいる傍で、私がたぶん眠い顔をしてぼーっとしていたのだろう。この子はふとそれに気が付いたらしくて、そーっと寄って来て下から私の顔を見上げ、こう言った。「おじーさん、大丈夫?」私は、この子がそんないたわりの言葉を自然に言えたことにまず驚いた。しかもそれが、本当に心がこもった言い方なので、さらにまたびっくりした。

 最近のお気に入りは私が機種変更する前に使っていた古いiPhone4で、人差し指で左から右へとサーッとスワイプして開始する様は誠に堂にいったもの。そして出てくるあらゆるアイコンをタップする。先日は、それでゲラゲラ笑っているから何かと思ったら、コンパスの針が自在に動くので面白かったようだ。こんな風に遊んでいるから、てっきりそれぞれのボタンの意味など全然わかっていないと端から思い込んでいたのだけれど、実はそうではなかった。ついこの間、その1週間前にこの子が来たときに、私が今使っているiPhone5で音楽を聞かせていたことを思い出し、覚えているかなぁと思いつつ、私が試しに「ボクちゃん、おじいさんに音楽を聴かせて」と頼んだ。するとちゃんと自分でiPhone4を手に持って、迷いなくミュージックのアイコンをタップしたではないか。そして「あれ、ミュージックが聞こえないねぇ」という。そんなはずがないと思ってふと見ると、それもそのはずで、いま触らせているiPhone4は前日にいったん初期化したものだから、それには確かに音楽を入れてなかった。そこで「ああそうだった。ごめんね。これには音楽を入れてなかった。今度来るときまでに入れておくね」と言ってその場を引き取った。それでさらに1週間後にまた来たときに、机の端っこにあったiPhone4をめざとく見つけて突進してきて、ミュージックのアイコンをタップしたではないか・・・。そして、実際に音楽が流れてきて、にっこりと満面の笑みを浮かべていた。ああ、記憶力もちゃんとあるんだ・・・。

 初孫ちゃんは、インターナショナルの幼稚園と同時に英語学校に通っていたこともあって、英語はかなりの水準だ。西新宿のホテルから暗くなった外を見て、この子がふと「Where's the moon ?」とつぶやいた。たまたま、バイリンガルの人が近くにいて思わず「Oh You can't see the moon?」と言うと、初孫ちゃんが「No! Buildings are hiding the moon 」と、ちゃんとした文章をしゃべったので驚いた。しかも、YesとNoの使い方も正しい。この歳にしてはすごい成果である。通っているインターの幼稚園で、先生と自在に英語でしゃべっているのを見た同級生のお母さんが、この子の父親は外国人だと思い込んだというから、さもありなん。

 また、通っていた英語学校のおかげで、英文をいかにもそれらしき発音で読めるようになっている。たとえば、ディズニー・シーで電車待ちをしていたときに、「次の電車はどこそこ行き」という英文の電光表示をすらすらと読んでいた。しかも、英語のネイティブらしき発音だったから、2度びっくりした。アルファベットが読めるだけでなく、発音までちゃんとしている。でも、それだけではない。地下鉄の千代田線で新御茶ノ水駅に着いた。すると「ここはどこ?」と聞いてくるので私が「御茶ノ水だよ」と答えたら、車内からちらりと駅名表示を見て、「ああ、しんおちゃのみずね」と言われた。私は、この子は漢字も平仮名も読めないはずなのになぜわかったのかと思って一瞬、不思議に思った。そこで駅名表示をよく見ると、そこには漢字の標記と並んで「shin-ochanomizu」というローマ字表記があり、それを読んだのだと気が付いたのである。この間、英語で数を数えさせたら、なんと「one hundred」つまり100まで一気に数えられたので、びっくりした。

 しかし、そんなことで驚いていてはいけない。今年の10月、3歳10ヵ月になったときに、英検4級を受けた。そうしたら、65点満点中38点とれば合格のところ、初孫ちゃんは34点にとどまって残念ながら不合格ではあったが、それでもあともう少しというところまで行ったのである。分野別得点をみると、

 (1)語彙・熟語・文法が60%の得点率(全受験者の平均得点率も、60%)
 (2)読解が40%の得点率(全受験者の平均得点率は、約73%)
 (3)リスニングが53%の得点率(全受験者の平均得点率は、70%)
 (4)作文が60%の得点率(全受験者の平均得点率は、80%)

 ということで、どの分野でもほぼ万遍なく得点しているから、英語学校の成果は明確に出ている。実は、私自身も、まだおむつをしているこんな小さい子がこれほど英語が出来るとは思いもしなかった。

 もちろん、我々と話すときには日本語一本だが、それでも名詞にはときどき英単語を使う。たとえば、お日様はSun、蟻さんはAntsなどである。我々は、あえて訂正するようなことはしない。もうすぐ4歳になり、しかも都内の私の家の近くに転居してくるというので、幼稚園をどうするかということになった。そこでまず、すぐ近くの公立幼稚園に申し込んだら、定員に十分余裕があって、受け入れてくれるという。そのとき園長先生の面接があったのだけれど、りんごとみかんを見せられて、「これは何?」と聞かれたらしい。すると初孫ちゃんは、堂々と「This is an apple and that's an orange!」と答えたそうな。すると先生は、「これはりんご、こっちはみかんでしょ」と訂正しようとしたそうな。私はそれを聞いて、直観的に、ここは合わないなと思った。

 いささか大袈裟にいうと、日本社会の異質のもの排除の論理と、日本語押し付け教育の片鱗が覗えたからである。かつての富国強兵や高度経済成長時代のように、日本国内だけで通じるような標準的で均一の能力を持つ一兵卒や一社員を育て上げるのならそれで良いのかもしれないけれど、我が孫にそれなりの能力があるのなら、もっとリーダーシップを持たせ、独創性と世界に羽ばたくことが出来る言語能力を持たせたいと思う。現に2歳前から英語学校に通わせたら、とりあえずこれだけ英語が出来るようになった。それなのに異質排除の論理で平均的日本人化するような教育をやられたりしたら、それこそたまらない。当面は、この英語能力を定着させなければならない。それ以降は、インターナショナル・スクールも含めて小学校を選択する時点で母親がまた良く考えて、プランを練るそうだ。

 母親つまり私の娘の、この子についての教育計画を聞くと、まずバイリンガルにすること、次に世界的に著名な大学に入れること、そして世界をリードする一流の人物にするそうだ。そのためには、教育費を惜しみなく注ぎ込む覚悟のようである。医者という職業柄、ある程度の収入は見込めるので、たやすくはないが万が一のことがあれば、私も相応に協力しようと思っている。そう思うのも、私たち一家が約30年前に東南アジアで3年間暮らしていた経験が背景にある。

 日本の社会は、良きにつけ悪しきにつけ、日本語と日本文化といういわば島国の中で守られている。明治維新以来、外国のものを翻訳し、それを自家薬籠中のものとして文化を発展させ、外国と対等に渡り合い、植民地化を免れ、戦争で大変な犠牲を払ったものの、その後は経済的な繁栄を続けてきた。私もその中の日本という国家の一員として、法律という分野ではあるが、粉骨砕身して国のために一生懸命の努力を続けてきたと自負している。ところが、最近の世界はグローバル化とIT化がたいそう進んで、国家という垣根がだんだん低くなり、特にビジネスの面ではすっかり垣根は取り払われてきたといっても過言ではない。そういう状態に立ち至った社会では、もうかつてのように国家の存立を守らなければ個人の幸せはないなどという時代では全くなくなった。そうではなくて、個人の力量を磨いて世界のどこででも伍していき、自らの幸せを追及するような時代なのだと思う。つまりは国家主義から個人主義へと地殻変動が起こったというわけだ。

 では、そのような世界で一流の能力がある個人をどう育てるべきかというと、東南アジアの状況を観ればよくわかる。使われる言語は、自分の出身である人種の言葉とともに、まず英語である。これが出来ないと、満足な仕事にもありつけない。だから、現地の裕福な人々の子供たちが通う幼稚園の教科書を見ると、たとえば大きなお花の絵の周囲には、英語で「flower」、中国語で「『花』という漢字とともにアルファベットで『ホア』(北京語)」、マレー語で「bunga」、それに詳しくは忘れたが確かタミール語とおぼしき言語でも書いてあった。つまり一流の人は最低でもバイリンガル、普通にトリリンガル(3か国語のできる人)になっているのである。加えて、自分の得意な面を伸ばし、リーダーシップのある子はそれにますます磨きをかける。そしてこれが最も大事なことであるが、独創的な発想が出来て、しかもそれを最後までやり抜く強い意思を持つ人間、私は、これが近い未来のあるべき日本人の姿だと思う。初孫ちゃんには、そういう人になってほしい。日本語しかできずに周囲と付和雷同することしか知らない一兵卒・一社員になってしまっては、もう未来はない・・・それくらいに思っている。

 それはあと10数年以上も先の話だけど、それにしてもそれまでの間、この子をバイリンガルにする戦略が大事だ。私自身の英語は、日常生活はもちろん、仕事でも十分に通じると自負しているけれども、とりわけ単語や文章の発音がいかにも日本人的である。この点は反省したいところだが、今更どうすることもできない。こうした単語の発音やしゃべり言葉のイントネーションは、初孫ちゃんのように1〜2歳の言語機能が発達する頃から教えておかないと、絶対に身につかないことは確かである。そういうことで、母親がこの子をインターナショナルの幼稚園に行かせる前の幼児段階から英語学校に通わせたというのは、実に良かったと思う。もちろん教育費用はかかるが、こういうことは意識して継続させておかないと、すぐに忘れてしまう。それが今後の課題である。

 ところで、もうすぐ4歳になるこの初孫ちゃんに食事をさせるのは、なかなか一筋縄ではいかなくて、それなりの工夫がいる。放っておくと、パンとスパゲティとチーズばかりを食べて、肉と野菜はあまり食べてくれない。それでも食事の時に野菜の小さいポーションをとって、遊んでいる隙をみてその口に放り込むのだけれど、大きなものや嫌なもの、食べたことのないものは吐き出してしまので、こういう場合はどうすべきなのかと困ってしまう。

 その点、ときどき丸1日の保育をお願いしているベテランのシッターさんは大変な育児上手だ。昼食時に初孫ちゃんが焼きご飯を与えられても、わずかその1割も食べずにビーチボールを持って飛び出していってしまったことがあった。私なら、「あーぁ、ちょっとしか食べなかった」とがっかりして、そこでそのまま食事を片づけるところだけれど、このシッターさんは違った。サッカーの歌を歌いながらこの子が近づいて来るのを待ち、目の前に来たら、「あなたは香川かな?」とかなんとか言っちゃって初孫ちゃんの警戒が解けて口を開けたとたん、小さなポーションをさっと押し込み、「ああ良く出来たねえ」と褒める・・・それも、初孫ちゃんが蹴るボールを右や左に避けて、時々それを頭に当てながらやるのだからいやもう大変・・・というのを繰り返して、とうとう残る8割も食べさせ、ほとんど完食状態に持っていったのには心底驚いた。大変な技術だ・・・これこそ、プロの技である。それだけでなく、ご自身は細身の身体なのに力を使うのをぜんぜん厭わなくて、動物園でボクちゃんの背が低くて柵が邪魔になって動物が見えないと、自然にちゃんと身体を持ち上げてくれている。親切の固まりだ。初孫ちゃんのお世話は、こういう人の力を借りて行う総力戦である。

 ここ数ヶ月の初孫ちゃんは「ごっこ遊び」を好んでする。部屋の中に持ち込まれたダンボール箱などを使って「ここ、ボクちゃんち」という区画を作る。その前に立って「ごめんください」とグランマがいうと、初孫ちゃんは「はい、どうぞ、お入りください」と答える。そこに入ってグランマが「お腹がすいたから、パンをください」というと、初孫ちゃんは手に持っていた丸いものをくれる。次に「カレーライスをください」というと、初孫ちゃんは一瞬、困った顔をする。そこで、グランマが「あっここにあった」というと、それをホイとくれて、そして何もないところから、あたかも空をつかむような仕草をして「はい、スプーンをどうぞ」という。それでグランマが食べたふりをして、「ああ、おいしかった」というと、初孫ちゃんは「食器は、台所に下げてね」という。そして、自分はその台所の洗面台で、一生懸命に洗う真似をしている。それを見たら、もう、笑いをかみころすのに苦労する。こうやって社会性を学び、ちょっと詰まったときには、ヒントをあげて困らないようにするのが良いそうだ。

 また最近はお風呂に入りたくないとただをこねるようになった。グランマと入りたい」という。理由を聞くと、お風呂の中でママが問答無用に迫ってきて、頭を洗うから目が痛いそうだ。そこでグランマは、「これからは、ママが頭を洗うときに、『さあ、洗いますよ』というから、そこで目をつぶりなさい。それで洗ってすすいでから、『さあ、眼を開けていいわよ』というから、そしたら目を開けなさい。そうすると、痛くないからね」と説明すると、頷いていたそうな。

 一般に子供が3〜4歳になると、第一反抗期というのがあるらしい。そういえば私の姪っ子で、親の言うことを全く聞かずに、スーパーの中でひっくり返って泣きわめいたりするのがいたが、初孫ちゃんの場合はそういうことはまずないから、有難い。もちろん、夜寝る前などに眠たくなると、少々滅茶苦茶なことを言ったりやったりする場合もあるが、総じてちゃんと説明すれば、理解して従ってくれるから、シッターさんたちもやり易いと言ってくれている。ただ最近は、「なになにしよう」と言うと、決まって「嫌だ」というのが最初の反応だ。たとえば、「ボクちゃん、トイレに行こうか?」というと、「嫌だ。まだ行きたくない」という。グランマなどはこういうときにどうするのかとみていると、「では、まずおじーさんに行ってもらおう。次にグランマね。そしたら最後にあなたよ」なんて言っちゃって、トイレに行けというジェスチャーをするから仕方なくそういうふりをして出てくると、次いで自分が入り、最後にこの子はどうするかと見ていたら、あーら不思議・・・大人しくトイレに行った。なるほど、これもひとつの技である。

 それから最近気を付けていることは、この子が自分で出来そうなことは、なるべくやらせてあげることである。自立心の芽生えで、自分で何でもやりたいという気になるらしい。反抗期の裏返しのようなものだという。たとえば、私のマンションに連れて来てエレベーターの前に立ち、私はいつもの通りさっと手を伸ばして「上」のボタンを押した。するとこの子が猛然と抗議してきて「ああん。ボクが押したかったのに」という。「ああ、そうだったね。ごめん、ごめん。中に行先のボタンがあるから、それでおじーさんの家のボタンを押して。10階だよ。」といっているうちに、エレベーターが降りてきてドアが開いた。中に入って黙っていると、自分で「10」の数字を覚えていて、ジャンプして正しくそれを押した。そのとき扉が閉まる、「チャリーン」という音がした。それを聞いて私の顔を見上げ、にっこりして「良い音だね」というから、笑ってしまった。

 そうかと思うと、外出時に私のカメラを持とうとするので、「これはダメ」と言うと、一応は言うことを聞くのだけれど、やや恨めしそうな顔をして、じーっとこちらを見上げている。根負けして、ちょっと触らせて上げると、大きな石や木の葉っぱ、動物園ではライオンなどを撮り、満足している。いかにも、うれしそうだ。それから、あまり言わなくなったから、触らせてもらってそれなりに満足したようだ。

 昨日は、皆でディズニー・シーに行ってきた。この子が1日に何枚も書く絵は、ここのプロメテウス火山が噴火する様子を表している。それだけに、この火山がたいそう好きなようだが、アンビバレンツというか、そう単純でもないらしい。要するに、プロメテウス火山そのものは好きなのだけれど、噴火はとても恐ろしく思っているようなのだ。たとえば、前回、夏に来たときには、ヴォルケイニヤ・レストランで昼食後、外の椅子に3時間ほど座って、飽きもせずに火山を眺めていたそうだ。ところがこの火山、午後4時頃には大音響とともに噴火する。それを見て、事件が好きな母親はもっと見ようと前進したが、怖いことが嫌いなこの子は、普段はしっかり握っている母の手を振りほどいて反対方向へ一目散に逃げたそうな・・・何という親子だと、その顛末を聞いて、大笑いした。

ディズニー・シーのプロメテウス火山が噴火する様子


 さて、この日も午後4時になるのを待っていると、プロメテウス火山の噴火が始まった。ドドーンという音とともに、真っ赤な炎が夕暮れ時の空を照らす。初孫ちゃんの様子はというと、噴火の瞬間、私の手をぎゅーっと握ってきたが、前回のように反対方向に逃げ出すということはなかった。そのつぶらな目を開けて、山頂を凝視している。こうやって、世の中のことにひとつひとつ、慣れていくのだろう。赤い炎を見ながら、初孫ちゃんは今、いったい何を思っているのだろうか。








  関 連 記 事
 初孫ちゃんの誕生
 初孫ちゃんは1歳
 初孫ちゃんは1歳4ヶ月
 初孫ちゃんは1歳6ヶ月
 初孫ちゃんもうすぐ2歳
 初孫ちゃんは2歳2ヶ月
 初孫ちゃんは3歳4ヶ月
 初孫ちゃんは3歳6ヶ月
 幼稚園からのお便り(1)
10  初孫ちゃんもうすぐ4歳
11  幼稚園からのお便り(2)
12  初孫ちゃん育爺奮闘記
13  初孫ちゃんは4歳3ヶ月
14  初孫ちゃんは4歳6ヶ月
15  孫と暮らす日々



(2012年12月 2日記)


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