モーターショーなるものに、初めて行って来た。場所が東京ビックサイトだったから、我が家から40分ほどで着く。これなら手軽に行けそうだと思って、インターネットで前売り券を購入し、それを印刷して持って行った。ところが行ったのは土曜日の朝で、もうすごい人の波である。見渡す限りの人、人、人で、先々週の秩父の夜祭りどころではない。それでも、まだ午前中は車そのものを見る余裕があった。ところがお昼を過ぎてからは大変な混雑ぶりで、いやはや大変だった。後から新聞を見ると、前回2009年には61万4400人の入場者だったものが、今回は84万2600人と、4割ほど増えたそうだ。昔は幕張メッセでの開催だったが今回は東京開催で、場所が違うとはいえ、これほど込み合うとは思っていなかった。
人並みに押されるようにして最初に向かったのが、たまたま「東」館であった。会場に入ると、いきなり近未来の風景が目に飛び込んできた。モデルさんたち4人が銀色の服に銀髪をし、それだけでなくご丁寧にその眼にも銀のラメを付け、スポーツ・カーの脇でポーズをとっている。二人ずつ組みになって動いて、スポーツ・カーの前後に来たら、腰をひねり、腕を輪のようにしてポーズを決める。数分したらまた動いて、別の場所で同じようなポーズをとる。これは面白いと思ってカメラを向けてしばしの間、シャッターを切り続けた。はて、これはどこのメーカーかと思ったら、
ポルシェである。なるほど、確かにこれは、先進的なイメージが出ている。
そこを出て再び人の流れに身を任せると、「Mitsubishi Motors」と赤い文字の看板が出ている
三菱自動車のコーナーにたどり着いた。ステージの前には、11時からショーが始まると書いてある。あと数分だと思って待っていると、軽快な音楽に合わせて、まずモデルさんたちが出てきて、車の脇で楽しそうにポーズをする。よく見ていると、そのモデルさんによっては、いかにも楽しそうな自然の笑顔を見せる人と、必ずしもそうではなく、文字通り商売用に無理して作った笑顔でやっている人など色々といて、ひとりひとりの個性が出ているから面白い。ひときわ音楽が大きくなり、正面に4人組が出てきた。黒人で短髪の男性、白人でいかにもイタリー人らしき軽い感じの男性、やや太っちょの黒人女性、それから帽子をかぶった日本人らしき小柄な女性シンガーという組み合わせである。どうにも統一感のないこのカルテットだが、まあそれなりに楽しそうに演じていて、ややチャランポランな感じが、電気自動車で
ミーブという名のこの会社が売りたい車のイメージに合っている気がした。つまり、消費者としては、現在の電気自動車については、走行途中でバッテリーが切れたらどうしようか・・・値段はまだまだ高いな・・・それに、車体がやけに小さいな・・・などと色々と気になるものだが、まあ、そんなことは気にしないで、ともかく楽しく乗ろうよなどと訴えかけているような感じなのである。大丈夫かな・・・。
しばらく歩くと、
鈴木自動車のコーナーに来た。これは、ある意味ではわかりやすくて、オレンジ色のカタツムリのような電気自動車を売ろうとしているようだ。その脇に若い美人のモデルさんを2人配し、かつまた和風美人のモデルさんも加えて、ちょっとお歳を召した人に対してもまるで「この車は良いですよ、ひとつどうですか」などと言っているかのようである。それをカメラで追っていくと、素人カメラマンとしては、専らモデルさんばかり撮して、肝心の車にはあまり注意を払わなかった。それもそうで、このモデルさんがいて初めて車が魅力的に映るのであって、このモデルさんたちを除いてしまったら、車はただの動く鉄の箱となるに違いない。ああ、なるほど、これがモーターショーの本質なのかと思い当たった。
さて次に、
ホンダの展示ブースに来た。ああ、やっている、やっている。さっそくアシモが活躍しているではないか。歩き方も、両腕や手首の動かし方も、昔よりはるかに滑らかになっている。ただ、へっぴり腰気味に歩く癖は、直っていない。でもまあ、ヒューマノイド型ロボットとしてこれだけの性能があれば、もう十分である。そして次に、いかにもホンダらしいショーが始まった。いささか軽いノリの若い人たちがたくさん出てきて、いずれもツナギ(みたいな)作業服を着て、トルコ帽のようなややトッポイ感じの帽子をかぶり、いかにも楽しそうに小型車や小型バイクを乗り回している。ああ、これこれ、これがホンダに対して私の抱くイメージそのものである。確か、本田宗一郎も、町のバイク屋のおやじよろしく、いつもこんな感じの自動車修理工さん風のツナギの作業服を着ていたっけ・・・つい、昔のことを思い出してしまった。
ホンダの展示ブースの前には、
ヤマハのバイクがあった。この会社は、スノーモービルなども作っているようで、間近にこれを見たのは、初めてである。
日立製作所のブースがあったが、いったい何を訴えたいのか、さっぱりわからなかった。およそ、この会場の雰囲気とはかけ離れている。これは広報が下手としか言いようがない。次のふそうの展示も、何か場違いのような気がした。というのは、例の大型トラックがドーンと停めてあって、その脇で高校生のようなモデルさんが、片方の手の平をはいどうぞとばかりに上へ向けている。およそ、本人も、どうやってこの大きな車の脇でポーズをとろうかと迷った挙句のスタイルらしい。あまりのアンバランスさに、思わず笑えてきた。これならいっそのこと、その大型トラックに蝉のごとく取りついてしまった方が、話題の提供になったかもしれない。
メルセデス・ベンツの展示場では、小型車A-Classのコンセプト・モデルがあった。恰好はよろしいが、側面の窓が小さすぎるような気がする。やはり、そもそもベンツという商標と小型車にはそぐわないのではないだろうか。昔の経験だが、ベンツという車は、ヨーロッパで生まれただけあって、やや中距離以上を行くには、あの背中のクッションの固さが心地よい。ところが市内をちょこちょこ走るには、トヨタのクッションの方が柔らかくて体に合う。ただこれは、長距離を車に乗っている場合には背中が痛くなり腰痛を引き起こす原因ともなりかねず、諸刃の刃ということになる。まあどういう風にその車を使いたいかということによるものだ。
ニッサンのコーナーに来た。ステージの上には、未来型とでもいおうか、私にとっては妙な昆虫の形に思える数々の電気自動車ばかりが並べてある。リーフという名がつけられているものの、眼のように見えるライトが左右に突き出しているような車は、まさに虫そのもので、まるで漫画に描かれる車のようだ。いささか気味の悪さを感じているところに、軽やかな音楽が流れて、普段着のモデルさんというか俳優さんたち、若い男女の皆さんが出てきて、ピョンピョン跳ねながらステージ狭しと動き回る。これは面白いと、写真に撮ろうとするのだが、照明は次々に色を変えるし、モデルさんたちは動き回るしで、非常に撮りにくい。それでも、何枚かは見られる写真となった。やれやれと思って振り返ると、ニッサンの向かいには親会社
ルノーのブースがあり、オレンジ色のガル・ウィングつまり扉が上に向かって開くスタイルの車が展示してあった。なかなか格好がよろしい。
「東」館から、「西」館に向けて、人の波の中に巻き込まれる感じで、無理に抵抗せずにそのまま移動していった。途中、大きな耳を付けた車があり、その耳に向かって何か叫んでいる女性がいたりして、なかなか面白かったが、そのまま通り過ぎた。
BMWのブースに着くと、電気自動車
i8のコンセプト・カーが展示してあり、観客から思わず「かっこいいなぁ」という声が上がっていた。私も、そう思う。とても先進的な垢抜けたデザインである。
ようやく、
トヨタの展示ブースに着いたが、こちらも人また人の大混雑ぶりで、写真を撮るのもままならない有り様であった。高級車
レクサスの展示もあったが、覗き込んでいる人は誰もいなくて、「ああ、これか」という程度の反応である。東日本大震災を経験した後では、高級車どころではないというのが消費者の反応だろう。そのトヨタだが、家庭でも充電できるプラグイン・ハイブリッドの車を売ろうとしているようであったが、何しろ山のような人がいて、十分に見物する暇がなかった。最後に、ドラえもんの漫画の主人公の、のび太、しずかちゃん、スネ夫、ジャイアンなどの人形が置いてあって、家族連れが一緒に写真を撮っていた。それ自体は微笑ましいが、そもそもモーターショーという雰囲気にはマッチせず、何のためにこういうキャラクターを借りてきたのか、いささか意味不明のところがあった。
これからは、日本などの先進国では、ますますガソリン車・高級車離れが進み、軽自動車と電気自動車化が進むだろうし、それに加えて中進国や発展途上国では、昔のカローラのような、安くて丈夫な大衆車がどんどん普及する時期を迎える。とりわけ電気自動車時代の到来は、業界秩序を一変させるインパクトがある。これまでのガソリン車の時代には、特にエンジンの製造が難しくて、他業種から参入することなど不可能だった。ところが電気自動車の場合は、モーターと電池さえあれば、誰でも車を作ることができる時代になってしまった。その分、既存の自動車メーカーとしては、統一的な世界戦略を立てにくくなってきたと思うのである。しかしそうはいうものの、自動車という業種は、まだまだ我が国の輸出産業の中核を担っている産業なので、どうか引き続き頑張ってもらいたいものである。
東京モーターショー(写 真)は、こちら(2011年12月10日記)