東日本大震災 [Day21]

【Day 21 〜 汚染水流出ルートとアレバ】

 この史上稀に見る大震災と大津波を生き延びた人々の話から、殉職された公務員の方々の尊い犠牲の様子が明らかになってきた。ある警察官は、この3月末で定年を迎えようとしていた。ところが津波が起こるや否や、人々を避難させるために最後まで交差点に立って誘導していたそうだ。そのときのヘルメットをそのまま身につけて、ご遺体が発見されたそうである。あるいは結婚したばかりの若い女性町職員は、町の防災センターにいて皆に避難を呼び掛ける放送を最後まで行い、建物全体の高さを超えた津波に巻き込まれたという。また、ある消防団員は、消防署の若い同僚に対して早めの避難を勧め、自らは残って最後まで半鐘を打ち鳴らし続けて、町の人々の避難に役立ったとのこと。いずれも、公務員の鑑ではないか・・・自分勝手な人間が増えてきている昨今だが、こういう人がひとりでも多くいてくれれば、これからの日本は、ますます良くなるだろう。

 大震災の翌日以来、東京のスーパーやコンビニの棚からは、食料という食料が皆すべて消えていた。その原因としては、(1) 燃料不足や計画配送の遅れなどによって運送が混乱したこと、(2) 製造する工場が被災と原料不足と計画停電で稼働できなくなったこと、(3) 消費者のパニック的な買い占めがあったこと、(4) 被災地への物資の緊急支援で商品不足に陥ったことなどが考えられる。しかしこの問題は、ようやく昨日あたりから、徐々に解消しつつある。商品の種類はまだ少ないが、空っぽになっていた棚に商品が並べられているのでうれしくなる。ところが人間の心理というのは天の邪鬼なもので、商品が棚にないと何でも良いからあるものを買いたくなる。しかしこうやって現実に商品が目の前に出てくると、いつでも買えるから何もこんなパンをいま買う必要はないと思って買わない。まあ、商売人泣かせというころである。

 食料ではないが、東京の水道水から放射性ヨウ素が検出されてからというもの、ペットボトル入りのあらゆる水という水が、スーパーやコンビニの棚から一切なくなってしまった。この異例の「水不足」はまだ続いていて、どのスーパーの棚を見ても水が見当たらない。そういうわけで、私は家内や秘書さんから毎日、お茶っ葉とともに放射性ヨウ素入りとおぼしき水道水を飲まされ続けているが、もうこの年だから、まったく気にならない。むしろペットボトル入りの水は、乳幼児を持つご家庭で優先的に使っていただきたいと思っている。

 話は変わるが、先日の大震災と大津波によって、東北地方から関東の北部にかけて大変な被害を被ったわけである。本日現在の死者の数は1万1532人を超え、そのほか行方不明者が1万6441人になった。もちろん東京でも地震によって命を落とされた方もいた。たとえば築77年というあの老朽化した九段会館にいた人たちがそうで、運の悪いことに地震で天井が崩れて死者が数人出たということが報道されていた。そのような不幸に見舞われた方がおられたといっても、東京の死者数は7名と、全体の中ではごく少なかった。

 これは、物的被害についても言えることで、東北の太平洋岸では、大津波によって家もアパートも会社も工場も学校もすべてが、文字通り根こそぎさらわれていった。これに比べ、東京とその近辺では、ガラスが割れ、図書館の書架の中の書物が飛び出したくらいが、被害といえば被害のようなものだった。そういうことで、東北地方に比べれば東京近辺ではさほど大きな被害はなかったように考えていたら、千葉県の浦安市では、埋立地特有の地盤の液状化現象が起きていたことを知ったのである。たとえば道路が割れるは、地下から水と砂が吹き出すは、マンホールが飛び出るは、水道が断水するは、家が傾くはで、テレビの画面を通してではあるが、それはもう大変な被害を被っていた。

 ところが意外なことがあるもので、テレビの報道によれば、千葉県の内陸部でも液状化現象があったという。それは、千葉県我孫子市の布佐地区である。地震によって、家の中で1メートル近い段差が出来たり、大量の砂が地面から吹き出して来たり、道路脇で大きな木が植えられているコンクリート造りのポットがいとも簡単に転がっていたし、もちろん家がかなり傾いて、住めなくなってしまった。その原因であるが、明治時代の地図をみると、この地区は沼だったらしい。それを埋め立てて造成した土地だったようだ。吹き出した砂は、細かい粒でサラサラとしており、川砂だったと思われる。こんなものでは、地盤を支えられないわけだ。それにしても、同じ市内で昔は沼だったところだけがこうして液状化現象に見舞われて大きな被害を受けた反面、そのほかの地区にはまったくといってよいほど被害がなかったのであるから、やはり土地を買うようなときには、地盤を研究してから判断すべきだという教訓である。

 福島第一原子力発電所の事故であるが、素人目には二つの「恐ろしい」数字が報道された。ひとつは、放射性物質が発電所の地下水から初めて検出され、放射能汚染が徐々に広がっていることがわかったことである。これまでは、タービン建屋内の地下、そしてトレンチといわれる外の地下側道だけに高濃度汚染があったのだが、発電所の地下水から安全基準の約1万倍と、これまた高濃度の放射性物質が検出されていた。一連の汚染ルートが出来てしまっているものと思われる。すなわち、原子炉格納容器 → タービン建屋内の地下 → トレンチ → 発電所の地下水 → 発電所の取水口 → 発電所の周辺海域という順に汚染が広がっているのである。現に、30日午後に発電所南放水口から採取した海水から、基準の4385倍にも達する放射性ヨウ素が検出されている。これはもう、信じがたい値である。魚介類や海洋生物への悪影響が懸念される。環境への放出を可及的速やかに止めなければならない。

 もうひとつの数字は、国際原子力機関(IAEA)が、原発から北西に約40キロメートル離れた福島県飯舘村で、土壌からその避難基準の2倍に相当する高いレベルの放射線を検出したと公表したことである。まだ初期の評価で、限られたサンプルに基づいているとはいえ、いよいよ30キロメートル圏内の屋外待機すら生ぬるいということになったのではと、いささか驚いてしまった。これに対して我が国の原子力安全委員会の代谷誠治委員は、あれは草の表面から計測したもので、自分たちは空気中や摂取する飲食物に含まれる放射性物質を測定して、人体に直接的に影響を与える所を評価しているので、より正確である」とし、原子力安全保安院も、いま避難する必要はないといっているそうだ。

 なお、東京電力の管理の悪さを印象付ける事件がまた明るみに出た。原発作業員が放射線を浴びる可能性がある際には、線量計というものを必ず携帯して、自分が受けた放射線量を測定することになっている。ところが、ある作業員が告発したところによれば、自分たちの作業グループには1個しか持たされず、その1個をグループ長だけが身に付けているので、自分が浴びた放射線量はいくつだったのか、わからない」という。東京電力は、これを認めて、2000個あった線量計のストックが、わずか300個に激減している。だから放射線を浴びる程度が低い作業グループには、班長ひとりにしか持たせていないと告白した。そんなもの、全国の原子力発電所から取り寄せるなり何なりして、すぐに揃えられそうな気がするが、東京電力が果たして真面目にそういうロジスティックスの改善に取り組んでいるとはとても思えないから、ますます心配になるのである。

 ところで、この日、フランスの原子力企業の大手であるアレバのロベルジョン最高経営責任者(CEO)が来日した。無味乾燥な原子力の世界とは似つかわしくない、とても魅力的な美人女性である。この社長さんと会談した海江田万里経済産業大臣の顔が、心なしかほころんでいるように見えた。ともかく、アメリカの軍隊とGE、日本の日立と東芝、この仏アレバ、それに猫の手・・・もう誰の力を借りてもよいし、何でもやってよいから、この緊急事態を早く収束してもらいたいものだ。そうでないと、この美しい東日本が、放射能という身に見えない敵に、刻一刻と汚染されていってしまう。



(2011年 3月31日記)


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東日本大震災 [Day20]

【Day 20 〜 トレード・オフとアイデア】

 そろそろ、原子力緊急事態を追うのも疲れてきたが、やはり原子炉というのは現代の大魔王らしく、睡眠や食事を必要とする人間の生理的限界には関知せず、物理の法則に従って昼夜の別なくどんどん暴走していっているようだ。それでも、スリーマイル島の事故の場合は10日間で放射能の放出は収束した。そしてあの史上最悪のチェルノブイリ事故のケースは実験中の爆発で一挙に放射能がまき散らされたというわけだから、そもそも何日間で収まったという概念が成立しない。

 それにくらべて、どうだろうこの福島第一原子力発電所の事故は・・・始まってもう20日というのに、まだ放射能の放出を抑制する目処すら立っていない。南放水口付近の海水から、基準の3355倍の放射性ヨウ素131が検出された。ほぼ毎日、この手の数字が上がっていくではないか・・・止められないのか。昨日はごく微量とはいえ、猛毒のプルトニウムも出てきてしまった。ひどい・・・ひどすぎる。

 専門家によれば、緊急停止した原子炉の炉心の熱は、運転時の1%程度だそうだが、それでも毎分80〜140リットルの水を蒸発させるくらいの熱量に相当する。しかもそれは、放っておくと自然に冷めてくれるような生やさしい性質のものではなくて、半年経ってもこの半分の熱が出るし、ちょうど1年後でもこの3分の1の熱が出るという。

 それは大変だ。この暴走する発熱を押さえるために、本来なら原子炉に備えられている冷却装置を動かすところだが、それが津波の被害を受けて働かない。仕方がないので応急措置として、外部からポンプで原子炉に水を注入し、水が蒸発するときに奪われる熱を利用して冷やしている。その場合、理屈上は蒸発して失われる水と同量の水を入れれば相互にバランスする。だから、その状態で冷えていくのを気長に待つことになる。二号機と三号機は、そういう理屈通りに動いて安定しているので、まあこのまま何とかなるかもしれない。時間の問題であると思えばよい。

 ところが、一号機の動きがいささか不穏なのである。だいたい、この原子炉は、22日にもいったん温度が400度近くまで上昇した。設計上の温度は300度強なので、このままいくと耐えられないと判断された。それで、注水量を毎分300リットルと、倍にした。すると温度が下がってきた。しかし、また難しい問題が浮上してきたのである。つまり、この注水を増やすと温度が下がるのだけれど、建屋などに流出する水の量も増えてしまう。現に3日前にはタービン建屋の地下に溜まった水で、作業員3人の皆さんが被爆した。放射能の汚染されたこの水がある限り、原子炉本来の冷却装置を動かせないのである。つまり、原子炉に注入する水の量と、冷却装置回復の作業のはかどり方とは、トレード・オフの関係にあるというわけだ。

 それで、一号機の状況はというと、29日の未明に再び温度が高くなって320度に達した。これはいけないと、毎分110リットルだった注水量を引き上げて140リットルにして様子を見たところ、本日午前4時になって281度に下がったが、その分、どこかへ汚染水が漏れていってしまったことになる。試算によると、一号機は本来は80リットル程度で蒸発と注入がバランスするはずなのに、こうして100リットル以上を入れないと、温度が上がってしまって危険になる。いやはや、大魔王様のご機嫌取りは、とても大変だ。それにしても、どこへ、どんなルートを通って、どれだけ漏れているのか、さっぱりわからないというのは、誠に不安である。またこんな不安定な状況が1年どころか2年3年と続いたりしたら、全くたまったものではない。

 なお、この日、事故対応や計画停電の陣頭指揮に当たっていた東京電力の清水正孝社長(66歳)は、極度のめまいがあったとのことで、急遽入院してしまった。代わりに、勝俣恒久会長(71歳)が頑張り始めたようであるが、70歳台の人では、体力的になかなか厳しいのではないか・・・それでも、これだけの大問題を起こしておきながら、さっぱり顔も見ないし声も聞かなかった清水社長よりは良い。少なくとも自ら記者会見をして、少しはまともなことを言っているからだ。すなわち、国民にご迷惑と大きな不安感を与えたことを謝罪したいとか、これらの原子炉を廃炉にするつもりだとか、今回避難を余儀なくされた方々に対して原子力損害賠償法の枠組みの中で賠償することを考えているとか語っている。

 一方、環境への流出が続く放射性物質をいかに抑制するか、いろいろなアイデアが取りざたされている。たとえば、一・三・四号機の建屋は、水素爆発で破壊されてしまった。そのとき建屋の残骸が飛散して、ちりぢりになった。実はそれらから放射能が放出されている。これを押さえるため、遠隔操縦の無人車両を使って、敷地内の8万平方メートルに合成樹脂を散布するらしい。これは実際に始めるようだが、そのほか、建屋全体を特殊なシートで覆って、大気中への放射能の拡散を防ぐというアイデアがあるそうだ。

 これらは、大気中への拡散を押さえようとするものだが、当面の問題は汚染水である。海の中にどんどん流れ込んでいるようだ。それはどこから来ているかというと、タービン建屋地下の水だけでなく、原子炉建屋と海岸との間にあるトレンチに溜まった水である。これが、とんでもなく高い放射能に汚染されている。

 それを、復水器やタンクに移してから、冷却機能回復のための作業を行おうとしている。まず、復水器中にたくさんある水を復水貯蔵タンクに移し、その中の水を外の圧力抑制室用貯水タンクに移す。そうやってスペースを空けた復水器中にタービン建屋地下の汚染水を入れようとしている。いわば、玉突き方式である。

 しかし、今後とも除熱用に何千トンもの水が必要になるのであれば、それだけ多くの汚染水の発生が想定されるので、それをどこに溜めておくかが問題となる。このため、沖合に停泊させた中古タンカーに入れておくとか、新たに貯水プールを作るとか、色々なアイデアが浮かんでいる。もちろん、そうした汚染水を樹脂で漉し、放射性物質を取り除く試みも行われているそうだ。中には、珍案・妙案・奇抜な案などがあっても良い。ともかく、効果のあるものならもう何でも良いから、全日本、いや全世界のすべての科学技術の力を結集して、この難局を乗り切らなければならないときだ。原発の作業員の皆さんとともに、頑張ろう。



(2011年 3月30日記)


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東日本大震災 [Day19]

【Day 19 〜 まるでインパール作戦だ!】

 この日は、午前1時頃のNHKニュースを見て、本当にびっくりした。福島第一原子力発電所内の二カ所から、プルトニウムが見つかったというのである。プルトニウムといえば、核爆弾の材料で半減期が2万4000年(239の場合)、人体に強い毒性を示す。また何よりも、それだけでなく核燃料棒が損傷している証左である。これは、大変なことになったと思って床に入り、よく眠れないまま寝ぼけ眼で翌朝の新聞記事を見た。すると、プルトニウムは見つかったけれども、まだそれほど量は多くない。昔行われた大気中の核実験で放出された程度のものであると知り、少し安心した。それにしても、東京電力の情報操作か何か知らないが、昼間は呑気な内容の発表をしておきながら、重大な発表は必ずといって良いほど、真夜中にするというのは、本当にいただけない。おかげで睡眠不足になってしまう。

 それはともかくとして、本件について本日午前中に記者会見した枝野幸男官房長官は、「燃料棒から出ているのは、ほぼ間違いない。燃料棒が一定程度、溶融したことを裏付けている。大変深刻だ」と述べた。発見された場所は福島第一原子力発電所の敷地内で、ひとつは一号機と五号機の間にある固体廃棄物貯蔵庫、もうひとつはグラウンドの土壌である。これらから見つかったのは、プルトニウム238、239、240である。このうち、プルトニウム238は普通の核実験では生まれないというから、その発生源はこの原子炉であることには疑いはないという。果たしてこれが、普通の核燃料を使っている一号機と二号機から出ているのか、それともウランとプルトニウムを混ぜて作ったMOX燃料を使用する三号機に由来するのか、まだわかっていない。

 それとともに、私がもう一度びっくりしたのは、福島第一原子力発電所で復旧作業に当たっている作業員の皆さんの作業環境の悪さである。22日から26日まで、福島第一原子力発電所に滞在した原子力安全保安院の横田一磨統括原子力保安検査官が、所内の作業員の皆さんの様子をテレビで語った。それによると、作業員の数は400人で、1週間交代だという。一日2食しか与えられず、それも水1.5リットル、クラッカーとパックされたジュース、アルファ米と缶詰だけという貧弱な有り様である。そのわずかな補給も、運搬のバスがあまりにも頻繁に往復したので故障し、しばらく滞ったらしい。

 朝食後はそれぞれの持ち場へ行き、放射性物質に汚染されるおそれがあるから飲食物は持ち出せないから、昼食は抜きとなる。寝泊まりするのは免震重要棟という建物。建物内は毎時2〜3マイクロシーベルトで一応は安全である。午後5時には仕事を終えて三々五々集まってきて、午後8時からは全体会議で仕事の進捗状況を報告し合う。「がんばろう」と皆で叫んで寝る。寝床は会議室や廊下。汚染の可能性がある床を通じて被爆しないために、鉛入りのシートを引いて、その上に毛布にくるまって雑魚寝をする。朝6時には起床しなければならない。

 敷地内では、家族と携帯電話で話も出来ない。何週間も家族と連絡をとっていない人もいる。その一方、作業員には地元の人も多いが、その多くは今回の地震と津波の被害を受けている。その結果、家族の安否もわからない人もいるので、とても心配だ。しかし、避難区域になっているから誰も捜索できないことが、とても心残りである。

 いやもう、日本の救世主たらんとする皆さんが、まさに懸命の努力を続けているというのに、そもそも水や食料さえこんな程度しか世話ができない上に、心のケアもまったく放置されているというのでは、先が思いやられる。私は、無謀な作戦で大失敗したインパール作戦をついつい思い出してしまった。これは、第二次世界大戦の末期、連合国から中国への主要な補給路を絶とうとした日本軍の無謀な作戦である。つまり、ビルマからインド東北部のインパールを目指して、碌な補給もなしに山岳地帯と熱帯ジャングルを横切って攻め込もうとした。ところが人口希薄地帯で、ジャングルや河川に阻まれただけでなく、そもそも何の補給も考慮されていなかった行軍だったために、すぐに疲弊して総崩れとなり、最終的には何万という餓死者を出して撤退のやむなきに至った。

 今回の検査官の話は、原発事故からすでに10日から2週間経過した時点のことだが、それだけの日にちが経っているというのに、そもそも現場の皆さんの食料さえ満足に確保できていないというのは、誠に怠慢極まりないと思うのである。緊急時のロジスティックスがまるでなっていない。何回もやってきた訓練というのは、形骸化していたのだろう。自分たちで出来なければ、外部のプロの手助けを求めればよい。意気に感じて給食やお世話をしてくれるプロの人たちが日本中にいるはずだ。そんな考えもないというのでは、原子炉の暴走を押さえられるかどうか、心許ないではないか・・・しっかりしてほしい。そういうわけで、この日は、特にがっかりした一日だった。



【後日談】 これを書いてから1週間ほど経った4月7日付けの東京新聞の朝刊によれば、免震重要棟にいる東京電力社員の話として、「震災からしばらくの間はクラッカーや非常用乾燥米(これが、アルファ米というものか!)など一日二食だったが、今は菓子パンやバランス栄養食品、ソーセージも届き、一日三食となった・・・・最近、五日働くと一日休みが取れるようになった」とのことである。



(2011年 3月29日記)


カテゴリ:エッセイ | 23:16 | - | - | - |
東日本大震災 [Day18]

【Day 18 〜 東電の発表が二転三転する】

 福島第一原子力発電所の危機に当たり、原子炉圧力容器内の核燃料や使用済み核燃料の健全性が大きな鍵で、それがわからないと冷却装置を動かす今後の手順も作成できないという段階に来ている。そして、そのためにはタービン建屋の地下に溜まっている水の放射線の核種やその放射線量の高さを知らなければならない。ところが、昨日から今日にかけて、この大事な点についての東京電力の発表が全く出鱈目で二転三転したことにはもう呆れ果ててしまった。

 まず、27日午前中の発表で、東京電力からの報告を受けた原子力安全保安院の西山英彦審議官が二号機のタービン建屋内に溜まっている水から放射性ヨウ素134が検出され、これは通常の原子炉内を通る冷却水の中のものと比べて1000万倍もの高い放射能の濃度であると発表した。ちなみに放射性ヨウ素134の半減期は53分と非常に短い。これを聞いた専門家はびっくりした。というのは、それほど高い濃度の放射性ヨウ素134が出るということは、原子炉内で臨界を起こして核分裂反応が進んでいることを示すからである。ところが周囲の環境を調べてみると、放射線量にはさほどの変化がなく、核分裂反応が起こっているなら必ず出てくる中性子線も検出されなかった。いったいどうなっているのかと、専門家は首をかしげた。

 原子力委員会は、東京電力に対してそういう疑問を指摘した。同社はもう一度、測定結果を見直したところ、27日夜になり、放射性ヨウ素134というのは間違いで、コバルト56と取り違えたと公表した。ところが28日未明になって、この発表も誤りで、やはり放射性ヨウ素134だったが、濃度は実際には100分の1だったと発表した。合わせて、そのとき検出したといっていた二つの物質(セシウム134と137のことと思われる)も、実は検出されていなかったとも述べた。そういうことで、さては核分裂で臨界に達したかと、関係者の間で一瞬、緊張が走ったわけであるが、幸い誤りであったことになる。いずれにせよ、こういう基本的な情報を取り違え、しかも何回も訂正するというのは、誠にお粗末な対応である。現下はこういう緊急事態であるだけに、しっかりしてもらわなければ困る。

 また、悪い情報が出てきた。二号機タービン建屋の外にトレンチ(要するに、点検用の地下トンネル)や縦坑があるが、これはもともと放射線管理区域外である。ところがここに、毎時1000シーベルトという高い放射線量が観測された。ちなみに、二号機のタービン建屋の地下に溜まっている水も、これと同程度の放射線が測定されていることから、そこから漏れ出たと考えるべきだろう。



(2011年3月28日著)


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東日本大震災 [Day17]

【Day 17 〜 原発デッドロックに乗上げ】

 福島第一原子力発電所の放射能漏れ対策は、残念なことにデッドロックに乗り上げたようだ。これまでの出来事を振り返ると、3月11日の大地震発生直後、感知器が働いて原子炉が緊急停止をした。ここまでは設計時の想定の通りに動いてくれたのだが、それからは完全に想定を超える大津波に襲われた。設計上は5メートル弱程度の津波は想定していたようだけれども、実際にやって来た津波の高さは、12メートルを超えたようだ。しかもそれらが何波にも分かれて波状的に襲ってきた。これにより、原子炉やタービン建屋が浸水しただけでなく、送電塔の倒壊、配電盤の流出などが起こって、外部から受電する設備がその用を果たさなくなった。そういう緊急時のためにディーゼル発電機が働くはずだったが、設置されていた13台すべてが、津波の影響で動かなくなった。

 それからというもの、予想もしなかったことが、次々に起こった。まず、緊急停止したばかりの一号機から三号機までの原子炉本体はまだ高温で、冷却装置で除熱する必要があるのだが、それが出来なくなった。高い熱は冷却用の水を蒸発させ、そのまま放置しておくと核燃料棒が露出し、炉心溶融(メルト・ダウン)を起こしてチャイナ・シンドロームという恐ろしい事態になる(溶融した核燃料の残骸が地球の反対側にまで届きかねないというのがそのネーミングの由来であるが、これはやや誇大な表現で実際には原子炉格納容器の底に溜まるに過ぎないと思われている)。応急措置として外部から消防のポンプで海水を注入したのだが、それでも二号機では、現実に合計6時間ほど、核燃料がほぼ露出したのではないかと推測されている。やがて、ますます高温になると、燃料棒が溶け出して破損する。これが既に起きている模様である。加えて原子炉の建屋内に保存されている使用済み核燃料が熱を持ち、こちらも高温になってきた。すると、使用済み核燃料棒の被覆管ジルコニウムが溶けて水と反応し、水素が発生した。これが建屋内に溜まって一号機と三号機では水素爆発を起こし、建屋上部が崩壊してしまった。二号機は、水素爆発は起こさなかったものの、原子炉格納容器の下部にあるドーナツ状の圧力抑制室が損傷した模様である。

 一号機から四号機までにある使用済み核燃料貯蔵プールでは、温度が上がり始めたので、緊急対策として消防、自衛隊などが放水し、これは奏功したのであるが、あくまでも応急的な対策に過ぎない。これまで冷却にはやむを得ず海水を使っていたが、そのままでは海水に含まれる塩分で冷却効果が落ちるだけでなく、配管にひび割れを生じさせたり弁の開閉に問題が起きたり、電気がショートしたりするおそれがある。このため、米軍の支援で真水を確保し、昨日来、冷却用の水を海水から淡水に切り替えた。これで、心配の種のひとつは消えた。

 しかし、それはごくごく小さな前進に過ぎない。この原子炉からの放射性物質の放散を完全に防ぐためには、外部電源を復活させて、原子炉本体に備えてある本来の冷却装置を働かせる必要がある。そこで、東北電力からの引き込み線を作り、そのケーブルと配電盤を繋いで、ようやく中央制御室まで接続することが出来た。つい数日前のことである。これからは、その外部電源を原子炉本来の冷却装置に繋ぐことが出来れば、それで問題は根本的に解消する。

 本当は、先週末にもその作業に入るはずだった。ところが24日、三号機において、原子炉建屋の隣にあるタービン建屋でその作業を行っていた作業員3人が被爆をした。二号機のタービン建屋の床に溜まっていた水に、毎時1000ミリシーベルト(1シーベルト)以上の高い放射線量が検出されたのである。測定限界を超えたために、正確な値が分からないというのである。また三号機でも水面の放射線量が毎時750ミリシーベルトの高い値だった。このため、作業は中断され、再開の目途は立っていない。

 なお、検出された物質のうち、放射性ヨウ素131(半減期8日)は1立方センチ当たり1300万ベクレル、セシウム134(同2年)およびセシウム137(同30年)がそれぞれ1立方センチ当たり230万ベクレルである。ちなみに、毎時1シーベルトという放射線量は、人が浴びると吐き気などの顕著な症状が表れるレベルで、3〜4シーベルトになると約50%の人が死亡、6〜7シーベルト以上であれば99%以上の人が死亡するとされる。

 東電はこの高い放射線量について、原子炉由来だと考えているが、原子炉格納容器や圧力容器が破損しているとは考えにくく、むしろ弁やポンプが地震や高温・高圧になったことで損傷した可能性が高いとしている。また原子力安全保安院の西山英彦審議官も、ヨウ素やセシウムなどは核分裂反応に由来することから、やはりこれらは原子炉の由来である可能性が高いとしている。とりわけ三号機は、ウランとプルトニウムを混合しているMOX燃料を使用していることから、その中には猛毒のプルトニウムが含まれていることが問題であり、どこがどれだけ損傷しているかが気になるところである。

 これらの放射性物質は、環境に漏れ出しつつある。原子力安全保安院は26日、福島第一原子力発電所の放水口付近の海水から、放射性ヨウ素131が法定の濃度限度を約1250倍も上回って検出されたと発表した。数日前にも同じ場所で海水を採取したが、それよりも約10倍も高い水準である原子力安全保安院によれば、この水を0.5リットル飲むと、一般の人の年間被爆許容量である1ミリシーベルトになってしまうという。もっとも、放射性ヨウ素131の半減期は8日であるし、海流に乗って拡散するだろうから、その意味では過剰な反応をすべきではないと思うが、それにしても、気になる環境汚染レベルである。

 また原子炉の話に戻るが、一号機から三号機までのタービン建屋において、その床に溜まった高濃度汚染水の処理が当面の課題である。それを排出しなければ、冷却装置を動かす作業が進まない。今のところ、この汚染水を建屋内の復水器内に入れる方針で、そのためのポンプを設置しようとしていると聞く。ところが、その前にこの汚染水がどのようなルートを通って原子炉から漏れているのかを調べないと、せっかく排出してもまた漏れ出して来るのは明らかである。

 というわけで、せっかく外部電源を引いてきて、中央制御室までは繋げたものの、それから先の作業は、高濃度の汚染水が阻んでいる。いわば、行き詰まった感がある。明日からはまた不安な一週間が始まる。私の直感では、この原発事故問題は、そう簡単には収束しないのではないかと思われる。少なくとも2〜3ヶ月はかかるのではないかと見込んでいる。それまで、現場にいて作業に当たる東電と関係企業の社員、自衛隊員、消防隊員の皆さんはもちろん、原子炉本体や使用済み核燃料貯蔵プールには、何とか持ちこたえてもらいたいものだ。



(2011年 3月27日記)


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東日本大震災 [Day16]

【Day 16 〜 政府の広報のわかりにくさ】

 2週間前に巨大地震と大津波、それに福島第一原子力発電所の原子力事故が起こって以来というもの、私は、iPhoneのアプリを通じて常に情報を入手している。国内のニュースは時事通信、海外のニュースはAFP通信がそのソースである。被災者の方々の救護から支援の段階に入った現在、まだまったく解決の道筋が見えないのが、このうちの原発事故である。だから最近は、もっぱらこの原発事故の最新の状況が気になる。というのは、いつ何時どういう緊急事態が起こるかわからないから気が抜けないし、場合によっては東日本一円にその影響が及びかねない。それどころか、大袈裟かもしれないが、政府の命運、日本の将来、いやその前に、そもそも私の家族や我が身の安全がかかっている。

 だから、現地の情報をもっと素早く確実に入手できる良い方法はないものかと思っていた。そういう中、たまたま原子力安全保安院のホームページを見ていたら、「緊急時情報ホームページ」の「モバイル保安院」なるものがあり、緊急時の情報をiPhone のアドレスに直接送ってくれるらしい。ああ、これは便利だと思って、そのメーリング・リストに登録してもらった。これで私のiPhone 宛にいつでも緊急時情報が来ることとなったのだ。期待しながら待っていると、来た、来た。不定期にメールが届く。たとえば、次のようななメールが届いた。

差出人: 原子力安全・保安院
日時: 2011年3月26日13:08:02 JST
宛先: uu-life@i.softbank.jp
件名: 【第53報】東北地方太平洋沖地震による原子力施設への影響について(26日8時00分現在)

前回からの変更点は以下のとおり。

1.原子力発電所関係
○福島第一原子力発電所
・タービン建屋地下の溜まり水を測定した結果、主な核種として131I(ヨウ素)が2.1E05Bq/cm3、137Cs(セシウム)が1.8E06Bq/cm3、検出された。

・南放水口付近の海水核種分析の結果、131I(ヨウ素)が5.0E01Bq/cm3、(周辺監視区域外の水中濃度限度の1250.8倍)検出された。

2.原子力安全・保安院等の対応
<従業員等の被ばくの可能性>ケーブル敷設作業を行った作業員3名のうち、両足の皮膚に放射性物質の付着が確認された2名について、検査の結果、2人の足の被ばく量は2から6Svと推定されるが、足及び内部被ばく共に治療が必要となるレベルではなく、入院して経過を見ることとなった。
<飲食物への指示>出荷制限・摂取制限品目及び水道水の飲用制限に係る情報を追加


 ははぁ、わかったような、わからない・・・いやいや、まったくわからない。役に立たないなぁ・・・一般への広報が、本当に下手なのである。たとえていうと、このおそろしく専門的な言葉を素人にわかりやすく翻訳して書き直すことが出来る、トリセツ(家電製品の取扱説明書)を書けるようなプロフェショナルが必要ではないだろうか。
 
 そういえば、枝野官房長官も記者会見の場で「ただちには健康に影響を与えるレベルではない」と表現したりすることがある。そうすると、素人目には、その裏を読んでしまって「それではしばらく経ったら健康に影響が出るのだな」と解釈してしまう。そういう意図がないのなら、このように留保して表現するのではなく、「健康には問題ありません。もっとも、継続して毎日それを一年通して食べ続けるような、そんな極端なことをすれば、別ですけれどね」などと、まずポジティブに説明した上で例外的にダメな事例を示すのなら、国民は少しは安心できるのである。

 さて、大震災の発生から前日で丸2週間がすぎたこの土曜日26日午後9時現在の人的物的被害の様子をまとめておこう。警察庁の資料によれば、死者の数は1万0489人、行方不明者の数は1万6621人で、合計して2万7110人となった。負傷者は2777人である。建物については、全壊が1万8645軒、半壊が6767軒、流出が1165軒、一部損壊が11万184軒となっている。これらは単なる数字だが、その背景にはそれだけの数の家族の別れ、悲嘆、絶望、避難所での不便な暮らしがあると思うと、誠にやりきれない気分になる。



(2011年 3月26日記)


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東日本大震災 [Day15]

【Day 15 〜 ミネラルウォーター買占め】

 大震災の発生から丸2週間が経過した。東北各地の避難所では、大震災当初はまず、水・食料・燃料・毛布不足に悩まされた。それが満たされるようになると、今度は衣料、下着、生理用品、歯ブラシなどの日用生活品が不足した。それらが解消され始めると、次に将来に向けての不安を覚えるようになった。それもそのはずで、津波で家が流されたり、肉親の誰かを失ったり、あるいは勤めている会社がなくなったりしたのだから、当然のことである。政府や自治体も、これまでは食料や水、それに日用品を物理的に避難所に広く配布することが仕事だった。ところが、このようないわば精神的なショックをいかに緩和して差し上げられるのか、なかなか良い答えを導き出せていないようだ。

 このほか、福島県の第一原子力発電所から20キロメートルの範囲内にある8つの町村に対して緊急避難指示が出ていることから、これらの地域では町村役場ごと移転しなければならなくなった。たとえば双葉町は、すでに19日に町民千人以上とともに、村役場を埼玉県のさいたまスーパーアリーナへと移転させている。これら避難を余儀なくさせられた人々は、着の身着のままで家を出た方々が多く、異郷の不慣れな土地で、いつ終わるともしれない避難生活に疲れ果てている。

 首都圏では、23日に東京都水道局が金町浄水場の水道水より放射性ヨウ素が検出されたと発表された。それは、乳児の飲用の暫定基準値100ベクレルの2倍を超える1リットルあたり210ベクレルというものである。その前日は19ベクレルだったので、おそらく福島第一原子力発電所から排出された放射性ヨウ素が、雨によって川に流れ込んだものと考えられる。そこで東京都は、1歳未満の乳児が水道水を飲むのを控えるように求めた。これを皮切りとして、千葉県の水道水では基準の2倍を超える220ベクレル、福島県いわき市の水道水では103ベクレル、茨城県常陸太田市の水道水でも245ベクレルと、次々に各地に波及した。

 ところが翌24日になって、東京都の金町浄水場での放射性ヨウ素の値は79ベクレルと、規制値を下回った。これを受けて都は、乳児を対象とした水道水の摂取制限を解除した。識者の中には、解除は早すぎるという人もあったが、25日も金町浄水場の放射性ヨウ素の値は51ベクレルと、漸減傾向にある。

 しかし、この東日本各地の水道水が放射性物質によって文字通り「汚染」されたことにより、人々は争って飲料水やミネラル・ウォーターを買い求めるようになった。そのため、ペットボトル入りの水が店頭で売り切れる事態が、東日本だけでなく全国に広がった。たとえばこの報道があった直後、私はテレビのニュースを見ていたところ、とある中堅スーパーの店が画面に映った。すると、たちまち水の売り場に人だかりが出来たかと思うと、皆が手に手に水のボトルを持ってレジに向かう。店員が商品を次々に補充するそばから買われて、わずか20分もしないうちに在庫がすっかりなくなったのを見た。

 関東地方でなくとも、ペットボトルの飲料水を買って東北や関東在住の家族や友人に送ろうとする人が多く、地方でも売り切れが相次いでいる。まだこの放射性物質の量では、大人には悪影響をもたらさないというのだから、まずは乳児用の水を優先させて、買い占めなどもってのほかで、今こそ冷静な対応が求められていると思う。そんなことで家内には、放射能入りの水を飲むと宣言して実際に飲んでいるが、目に見えないものだけに確かにあまり気持ちのいいものではない。せめて飲み水だけは、当面はペットボトル入りのお茶にしようか・・・。

 ところで、事故を起こしている福島県の第一原子力発電所では、前日の三号機における作業員の被爆という事件があって、大きな衝撃を受けた。というのは、この3人が作業していた現場は、原子炉のある建屋そのものではなくその隣のタービン建屋であり、その前日にチェックしたときには水たまりが出来ている程度で、放射能の量も少なかったという。ちなみにこの3人については、その後、幸いにも特に皮膚に症状が出ることなく、28日に、とりあえず無事に退院したそうだ。よかった。


(2011年 3月25日記)


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東日本大震災 [Day14]


【Day 14 〜 関東各地では水道水が汚染】

 再び福島第一原子力発電所に話を戻そう。現下の状況であるが、これまで一号機から六号機までの全部を外部電源に繋いだ。その後、冷却装置を動かす前提として、まず中央制御室に電源を繋ぐ通電作業を行っており、三号機に続いて一号機の中央制御室の照明を点灯した。各原子炉の使用済核燃料貯蔵プールについては、三号機に対しポンプで海水を注入中、四号機に対しては新兵器である生コン圧送機を使って注水を行っている。原子炉そのものについては、一号機が最も要注意で、圧力容器内の温度が高くなった。設計上は300度なのに、400度にもなっていることから、海水の注入を調整したところ、やや温度が下がった。二号機では引き続き圧力容器に海水を注入しているが、タービン建屋内の放射線量が高くなった。三号機も同様の状況である。

 このように大災害を防ぐために、昼夜を分かたず、関係者による英雄的な作業が続けられているが、その反面、残念ながら、先日の三号機での爆発に続き、関係者の中で負傷する方も出てきた。この日は、原発内の作業員3人が173〜180ミリシーベルトの被曝をしたのである。この3人は、午前10時頃から、三号機の1階から地下1階にかけてケーブルを敷設する作業を行っていたが、うち2人が放射線によるやけどである「ベータ線熱傷」にかかったおそれがあるということで病院に運ばれた。

 2人は現場にたまっていた水に足をつけて作業を行っていたという。もともと放射線の基準は100ミリシーベルトで、それを今回の原発の作業に限って250ミリシーベルトに引き上げたので、それと比べればこの173〜180ミリシーベルトは基準内に収まっているように思える。しかし、これは一年間に浴びる放射能の基準であって。今回の出来事とはその深刻さは桁違いだという。つまり、その年かの許容量とほぼ同じ量をたった三時間で一度に浴びたというのは、とんでもなく危険なことだそうだ。なお、この事件によって、一号機から四号機までの電源復旧作業が一時中止され、電源復旧作業が遅れることが懸念されている。

 昨23日に、東京都は、葛飾区の金町浄水場の水から、1リットルあたり210ベクレルと、乳児の飲用の暫定基準値100ベクレルの2倍を超える放射性ヨウ素が検出されたと発表した。このため、東京都は23区と武蔵野、町田、多摩、稲城、三鷹の各市の住民に、水道水を乳児に摂取させないように呼びかけた。なお、大人の基準値は、300ベクレルである。この報道が行われるや、乳幼児をもつ親の不安感が頂点に達し、あちこちでミネラル・ウォーターの買い占めが行われた。とあるスーパーでは、ミネラル・ウォーターを店頭に陳列する間もなく買われ、わずか20分で完売したとのことである。

 私など、海外特に欧州に長期滞在していた経験から、たとえば現地製のミネラル・ウォーターを飲むときに注意していることがある。それは、特に欧州では一般に水が硬質なので、そのまま飲むとお腹がおかしくなるのである。だから、水道水でもいったん煮沸して硬度を落としてから飲むことにしていた。その煮沸に使った薬缶の注ぎ口や蓋の周囲には、びっしりと白いものが付いているので、驚いた。煮沸しないと、こんなものが体に入っていたのである。これに対し、日本に天然に豊富にある水は、軟水だから、私の体には合っている。何が言いたいからというと、ミネラル・ウォーターといってもかなりの硬水のものがあるのだから、万が一、そんなものを赤ちゃんに飲ませると、体調が悪くなるに違いないからである。しかし、テレビで見る限り、赤ちゃんを抱いているお母さんたちは、どうもそんなことは知らずに、ただミネラル・ウォーターだからといって、買い求めているような気がしたので、大丈夫かと心配になった。

 同じような話が、放射性ヨウ素131についてもいえる。チェルノブイリ原発事故の際は、拡散した危険な発がん物質として、放射性セシウム137(半減期30年)と放射性ヨウ素131(同8日)の二つが問題となった。このうち、前者のセシウムについては、これによってガン多発したかどうかは統計的に証明されなかった。ところが、後者のヨウ素については、とりわけ事故当時に乳幼児だった人を中心に、甲状腺ガンとの間で統計的に明らかに有意な結果が出ている。それで、ここが大事なところであるが、放射性ヨウ素131が幼児や若い人の甲状腺に入ってガンを引き起こすことを防ぐため、安定ヨウ素剤という薬がある。これは、放射性ヨウ素131が体に入る24時間前までに飲めば、先に甲状腺に入って放射性ヨウ素131が入り込むのを防ぎ、その90%以上を排泄できる効果があるそうだ。しかし、この薬は乳幼児の脳の発達を妨げ、知的障害を招くおそれがある。だから、一回だけの服用が進められている。今回、福島県の自治体によっては、そんな危ないものを原発からの避難民に配っているというが、おそろしいことだと思うのである。

放射能拡散予測図(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークのシミュレーション)


 なお、この日、私が驚いたのは原子力委員会が公表した放射能拡散予測図である。これは、同委員会が文部科学省参加の原子力安全技術センターの緊急時迅速放射能影響予測ネットワーク(SPEEDI)を使ったシミュレーションだという。今回、福島第一原子力発電所から放出されている放射能量は不明なため、厳しい条件として放射性ヨウ素の影響を最も受けやすい1歳児が3月12日から23日まで一日中屋外で過ごすことを前提として、甲状腺が受ける放射線量を測定したのである。これを見ると、たぶん風向きの影響だと思うが、原子力発電所を中心に描いた同心円上には全然収まっておらず、むしろ北西方向と南ないし南南東方向に大きく汚染が広がっていたので驚いた。むしろ、北西方向と南ないし南南東方向に、大きく汚染が広がっていたからである。シミュレーションとはいえ、風任せで汚染されているという意味では、チェルノブイリ事故の汚染図[Day11参照]を思い出してしまった。



(2011年 3月24日記)


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東日本大震災 [Day13]

【Day 13 〜 原発必死の作業と環境汚染】

 福島第一原子力発電所の一号機から六号機までの全部を、外部電源に繋ぐという困難な作業がようやく終了した。これでまず中央管制室を復旧し、次いで海水につかった機器が動くかどうかをチェックして、必要に応じその部品を取り替える。その上で、冷却装置を動かして反応炉を徐々に冷やし、最終的には、これを冷温停止の状態に持って行かなければならない。そこに至ったのが五号機と六号機であり、ようやく安心できる状況になったが、まだ一号機から四号機までが残っている。いずれも、破損状況がまちまちであることから、それに応じた個別の対応が必要である。それには、原子炉の細かいデータがなければならないが、二号機以外についてはその計器用の通電に成功した。しかし、これから冷却装置を動かすには、さまざまな関門が予想される。その意味で、まだまだ安心するには早いと思われる。なお、午後4時20分頃、三号機から煙がまた上がった。

 一方、厚生労働省は、23日未明、福島県産のブロッコリー、ほうれん草、カブ、小松菜など11品目と、茨城県産の加工前乳とパセリから、食品衛生法の暫定規制値を超える放射性物質が検出されたことを公表した。そこで管首相は、前者については摂取制限を、後者については出荷制限を指示した。このほか、東京都は、23日、都内に水道水を供給する金町浄水場から、乳児が飲む規制値の2倍を超える放射性ヨウ素を検出したと発表した。食品衛生法に基づく乳児の飲用に関する暫定的な規制値は100ベクレルとなっているが、前日午前9時に採水した水道水から210ベクレルを検出した。東京都では、この水道水を乳児の粉ミルクなどに使うことを控えるよう呼びかけている。ちなみに、これは半減期が8日にすぎない放射性ヨウ素131だから、せいぜい数ヶ月経つと無害なものになる。しかしこれが仮に放射性セシウムであるとすると、こちらは半減期が30年ということなので、注意を要する。

 なお、23日付けの日本経済新聞に、「明暦の大火に学べ」という山内昌之東京大学教授の次の一文が載っている。現在、国家的危機に瀕している日本についての、我が国知識人のひとつの見方である。

「阪神大震災が起きたときは、政権は村山富市首相だったが、村山氏はその初動は遅くリーダーシップは弱かったものの、村山氏は官僚などの専門家を信頼して仕事を任せるおおらかさで危機をひとまず乗り切り、その後に潔く辞職した。ところが今回は、政治主導と脱官僚の信念に呪縛された管首相のもとで、手足として働くべき官僚機構のヨコの連携がとれず、首相に連なるタテの指揮命令系統が機能不全に陥ったことだ。国家が危機に直面している現在、管首相も先人の経験や知恵に励まされることを期待したい。

 関東大震災や東京大空襲の被害を除けば日本史上最大の被害は明暦の大火(1657年)である。10万人といわれる焼死者を出し、江戸城も西の丸を残して全焼し、武家方と町方を問わず市中は焦土と化した。そのうえ大雪がつもった結果、凍死者が相次いだ。この未曾有の大惨事を収拾したのは4代将軍徳川家綱を補佐した会津藩主の保科正之である。保科は、将軍を江戸城から上野寛永寺に移そうという議をしりぞけ、動くべきでないとして本丸が消失しても江戸城を動かなかった。これは、民衆が混乱しているときに、最高権力者がみだりに動いては人心を惑わし治安も乱れるので、幕府が中央にどしっと構えて政策決定や指揮を一元化する狙いがあった。それだけでなく、路頭に迷った人に米を持ち出させ、粥を振る舞い、救助金を配った。

 この振る舞いに学ぶなら、最高指導者は指揮所からみだりに動くべきでなく、たとえ善意の督励であっても現場に出かけるには時機を見計らい慎重でなければならない。恢復のために官僚機構をもっと信頼して活用していたなら、官房副長官と事務次官のラインがきちんと機能して官庁間や東京電力とのヨコの連絡もスムーズについていたはずである。下の才智が動かなければ、自衛隊・警察庁・消防庁のヨコの連携も働かず福島第一原発への大量放水や電源回復も遅れていただろう。

 国家の危機を救うために命がけの自衛隊・消防・警察の隊員に加え、危険な現場で不眠不休の作業に当たる東電と関連企業や日立製作所・東芝などの勇敢な職員の成功を祈りながら、管首相は最終的に政治責任をとる覚悟さえもてばよいのだ。宰相の責任のあり方は、保科正之の時代から少しも変わっていないことを信じたい。」


 私が思うに、人を動かすには、いろいろな方法がある。きちんとした使命感を持たせて褒めながら気持ちよくやってもらう。上下関係で命令する。騙してさせる。脅かし怖がらせてやらせるなどである。しかし私は、このうち最初の、使命感を持たせて、褒めてやってもらうか、あるいはやってもらってから大いに褒めるか、その順序は別にして、これが一番効果があると思うのである。褒められるのが個人ならその力を最大限に発揮できるから後々の本人のためにもなるし、褒められるのが組織なら何人かの構成員の力量が総合的に発揮される結果として融通無碍な思わぬ力を引き出すことが出来る。

 この山内教授も書いているが、今回の大震災・津波・原子力災害に際して官庁、自衛隊・消防・警察、東電や関係会社などの傘下のそれぞれの持ち場・持ち場の現場において、死力を尽くして戦っている名もなき職員が大勢いるのだから、そういう方の正当な働きを正しく公平に評価し、褒めて褒めて褒めちぎり、その士気を鼓舞することが肝要だと考える。ちなみに、最初に車両による放水を行った警視庁機動隊員について、警視総監がひとりひとり呼んで言葉を交わし、その労苦をねぎらった。他方、東京都の石原慎太郎知事は、本格的な放水活動を行った東京消防庁の隊員に対して涙を流さんばかりに感謝をしたという。これこそ、組織の長のあるべき姿だと思うのである。ところが政府レベルで見ると、現実の姿はなかなかそうなっておらず、かえってあちこちで官僚機構に対する非難や軋轢が見受けられるのは、いささか残念なことである。

 ついでに人を動かす方法の他の方法についていうと、上下関係で命令しても、当面は言うことを聞くかもしれないが、すぐに指示待ち人間に堕してしまって、あまり効果はない。子供の教育のためによかれと思って子供を叱りつけて勉強させても、すぐに反抗して言うことを聞いてくれないのと同じである。皆さんも、思い当たることがあるだろう。その他、騙し・脅しは、下の下の策である。やはり、褒めて気持ちよくやってもらうというのが一番なのである。



(2011年 3月23日記)


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東日本大震災 [Day12]

【Day 12 〜 危機的状況から少しは光明】

 本日の福島第一原子力発電所関連のニュースで最も気になったのは、午後になって三号機と二号機の両方から煙が出たことである。三号機は午後3時55分からやや灰色がかった煙が出て、2時間後に止まった。その後まもなく二号機からも水蒸気のような白い煙が出ていた。これで敷地周辺の放射能のレベルは、午後6時半は1932マイクロシーベルトと一時上がったが、午後8時すぎには442マイクロシーベルトに下がったという。この灰色の煙の原因は、まだわかっていない。三号機の北西600メートルの地点の放射能のレベルは、20日午前6時半には、2,670マイクロシーベルトだったものが、同日午後2時50分には3,346マイクロシーベルトと上昇したものの、21日午後4時半では2,015マイクロシーベルトと下がっている。ただしこれは、放射性物質の自然の半減期にも合致しているので、まだ一定量の放射性物質が継続的に出ているという見方もある。管直人首相は、本日の午後に開いた緊急災害対策本部の会合で、「まだ危機的状況を脱したところまではいかないが、それを脱する光明が見えてきた」と語った。

 ところで、福島第一原子力発電所で大量放水を行って活躍した東京消防庁の職員について、あるエピソードが明らかとなった。東京都の石原慎太郎知事はその放水作業に従事した東京消防庁の職員に対し、政府関係者が「放水を続けなければ処分する」などと無理無体なこと言ったとして、管首相に抗議をした。石原知事は「離れたところにいる指揮官がね、指揮官が誰か知らんがね、『言う通りやらなかったら処分する』、そんなバカなこと言ったらね、戦は戦にならない。絶対そんなことを言わさんでくれ」と言ったらしい。ちなみに、消防職員がやむなく放水を続けたところ、放水車の機械が故障したとのことである。やはり、現場の人の経験と知恵と工夫を尊重すべきだろう。なお、本件については石原知事は明らかにしなかったが、翌日、海江田万里経済産業大臣が自分だと名乗り出て、謝罪した。

 福島第一原子力発電所の事故の影響で、関東各地において、通常を超える放射線量が検出されている。たとえば同発電所に近い茨城県北茨城市では、事故から6日経った16日には通常値の約300倍に当たる15.8マイクロシーベルト(1時間当たり)の放射線量が検出された。しかし、その後、減少する傾向を見せ、21日午前10時半現在では0.98マイクロシーベルトと大きく下がった。しかしながら、21日午後2時20分、福島第一原子力発電所の放水口付近の海水から、国の上限値に比べて放射性ヨウ素が126倍、放射性セシウムが16ないし24倍高濃度の放射性物質が検出された。

 それだけではない。ほうれん草と原乳について、暫定基準以上の放射性物質が見つかった。たとえば、ほうれん草については、放射性ヨウ素の暫定基準が2,000ベクレルに対し、54,100ベクレルも検出された。このため政府は、ほうれん草とかき菜について福島県、群馬県、栃木県、茨城県に対し、原乳についても福島県に対して、それぞれ出荷停止を命じた。千葉県でも旭市産のシュンギクから規制値を上回る放射性ヨウ素が検出されたことから、県は農協に対して回収を指示した。いよいよ、環境中に放出された放射性物質が散らばり始めたのである。ただし、ただちに健康に悪影響を与えるものではないから、冷静に対応するようにというのが、政府や県の規制当局の見解である。

 さて、大震災の発生から12日目を迎えた本日現在の人的被害の様子をまとめておこう。警察庁の資料によれば、死者の数は22日午後9時時点で9099人、行方不明者の数は1万3786人で、合計して2万2885人となった。岩手県、宮城県および福島県で収容されたご遺体のうち、4670人の身元を確認し、このうち、遺族に引き渡すことができたのは4150人のこと。また、避難所で生活する人の数は16都県の計約26万8600人に及び、このうち宮城県が約11万2600人、福島県が約8万3800人、岩手県が約4万4400人となっている。 ただただ合掌するのみ。



(2011年 3月22日記)


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