東日本大震災 [Day21]
2011.03.31 Thursday | by 悠々人生
【Day 21 〜 汚染水流出ルートとアレバ】
この史上稀に見る大震災と大津波を生き延びた人々の話から、殉職された公務員の方々の尊い犠牲の様子が明らかになってきた。ある警察官は、この3月末で定年を迎えようとしていた。ところが津波が起こるや否や、人々を避難させるために最後まで交差点に立って誘導していたそうだ。そのときのヘルメットをそのまま身につけて、ご遺体が発見されたそうである。あるいは結婚したばかりの若い女性町職員は、町の防災センターにいて皆に避難を呼び掛ける放送を最後まで行い、建物全体の高さを超えた津波に巻き込まれたという。また、ある消防団員は、消防署の若い同僚に対して早めの避難を勧め、自らは残って最後まで半鐘を打ち鳴らし続けて、町の人々の避難に役立ったとのこと。いずれも、公務員の鑑ではないか・・・自分勝手な人間が増えてきている昨今だが、こういう人がひとりでも多くいてくれれば、これからの日本は、ますます良くなるだろう。
大震災の翌日以来、東京のスーパーやコンビニの棚からは、食料という食料が皆すべて消えていた。その原因としては、(1) 燃料不足や計画配送の遅れなどによって運送が混乱したこと、(2) 製造する工場が被災と原料不足と計画停電で稼働できなくなったこと、(3) 消費者のパニック的な買い占めがあったこと、(4) 被災地への物資の緊急支援で商品不足に陥ったことなどが考えられる。しかしこの問題は、ようやく昨日あたりから、徐々に解消しつつある。商品の種類はまだ少ないが、空っぽになっていた棚に商品が並べられているのでうれしくなる。ところが人間の心理というのは天の邪鬼なもので、商品が棚にないと何でも良いからあるものを買いたくなる。しかしこうやって現実に商品が目の前に出てくると、いつでも買えるから何もこんなパンをいま買う必要はないと思って買わない。まあ、商売人泣かせというころである。
食料ではないが、東京の水道水から放射性ヨウ素が検出されてからというもの、ペットボトル入りのあらゆる水という水が、スーパーやコンビニの棚から一切なくなってしまった。この異例の「水不足」はまだ続いていて、どのスーパーの棚を見ても水が見当たらない。そういうわけで、私は家内や秘書さんから毎日、お茶っ葉とともに放射性ヨウ素入りとおぼしき水道水を飲まされ続けているが、もうこの年だから、まったく気にならない。むしろペットボトル入りの水は、乳幼児を持つご家庭で優先的に使っていただきたいと思っている。
話は変わるが、先日の大震災と大津波によって、東北地方から関東の北部にかけて大変な被害を被ったわけである。本日現在の死者の数は1万1532人を超え、そのほか行方不明者が1万6441人になった。もちろん東京でも地震によって命を落とされた方もいた。たとえば築77年というあの老朽化した九段会館にいた人たちがそうで、運の悪いことに地震で天井が崩れて死者が数人出たということが報道されていた。そのような不幸に見舞われた方がおられたといっても、東京の死者数は7名と、全体の中ではごく少なかった。
これは、物的被害についても言えることで、東北の太平洋岸では、大津波によって家もアパートも会社も工場も学校もすべてが、文字通り根こそぎさらわれていった。これに比べ、東京とその近辺では、ガラスが割れ、図書館の書架の中の書物が飛び出したくらいが、被害といえば被害のようなものだった。そういうことで、東北地方に比べれば東京近辺ではさほど大きな被害はなかったように考えていたら、千葉県の浦安市では、埋立地特有の地盤の液状化現象が起きていたことを知ったのである。たとえば道路が割れるは、地下から水と砂が吹き出すは、マンホールが飛び出るは、水道が断水するは、家が傾くはで、テレビの画面を通してではあるが、それはもう大変な被害を被っていた。
ところが意外なことがあるもので、テレビの報道によれば、千葉県の内陸部でも液状化現象があったという。それは、千葉県我孫子市の布佐地区である。地震によって、家の中で1メートル近い段差が出来たり、大量の砂が地面から吹き出して来たり、道路脇で大きな木が植えられているコンクリート造りのポットがいとも簡単に転がっていたし、もちろん家がかなり傾いて、住めなくなってしまった。その原因であるが、明治時代の地図をみると、この地区は沼だったらしい。それを埋め立てて造成した土地だったようだ。吹き出した砂は、細かい粒でサラサラとしており、川砂だったと思われる。こんなものでは、地盤を支えられないわけだ。それにしても、同じ市内で昔は沼だったところだけがこうして液状化現象に見舞われて大きな被害を受けた反面、そのほかの地区にはまったくといってよいほど被害がなかったのであるから、やはり土地を買うようなときには、地盤を研究してから判断すべきだという教訓である。
福島第一原子力発電所の事故であるが、素人目には二つの「恐ろしい」数字が報道された。ひとつは、放射性物質が発電所の地下水から初めて検出され、放射能汚染が徐々に広がっていることがわかったことである。これまでは、タービン建屋内の地下、そしてトレンチといわれる外の地下側道だけに高濃度汚染があったのだが、発電所の地下水から安全基準の約1万倍と、これまた高濃度の放射性物質が検出されていた。一連の汚染ルートが出来てしまっているものと思われる。すなわち、原子炉格納容器 → タービン建屋内の地下 → トレンチ → 発電所の地下水 → 発電所の取水口 → 発電所の周辺海域という順に汚染が広がっているのである。現に、30日午後に発電所南放水口から採取した海水から、基準の4385倍にも達する放射性ヨウ素が検出されている。これはもう、信じがたい値である。魚介類や海洋生物への悪影響が懸念される。環境への放出を可及的速やかに止めなければならない。
もうひとつの数字は、国際原子力機関(IAEA)が、原発から北西に約40キロメートル離れた福島県飯舘村で、土壌からその避難基準の2倍に相当する高いレベルの放射線を検出したと公表したことである。まだ初期の評価で、限られたサンプルに基づいているとはいえ、いよいよ30キロメートル圏内の屋外待機すら生ぬるいということになったのではと、いささか驚いてしまった。これに対して我が国の原子力安全委員会の代谷誠治委員は、「あれは草の表面から計測したもので、自分たちは空気中や摂取する飲食物に含まれる放射性物質を測定して、人体に直接的に影響を与える所を評価しているので、より正確である」とし、原子力安全保安院も、いま避難する必要はないといっているそうだ。
なお、東京電力の管理の悪さを印象付ける事件がまた明るみに出た。原発作業員が放射線を浴びる可能性がある際には、線量計というものを必ず携帯して、自分が受けた放射線量を測定することになっている。ところが、ある作業員が告発したところによれば、「自分たちの作業グループには1個しか持たされず、その1個をグループ長だけが身に付けているので、自分が浴びた放射線量はいくつだったのか、わからない」という。東京電力は、これを認めて、2000個あった線量計のストックが、わずか300個に激減している。だから放射線を浴びる程度が低い作業グループには、班長ひとりにしか持たせていないと告白した。そんなもの、全国の原子力発電所から取り寄せるなり何なりして、すぐに揃えられそうな気がするが、東京電力が果たして真面目にそういうロジスティックスの改善に取り組んでいるとはとても思えないから、ますます心配になるのである。
ところで、この日、フランスの原子力企業の大手であるアレバのロベルジョン最高経営責任者(CEO)が来日した。無味乾燥な原子力の世界とは似つかわしくない、とても魅力的な美人女性である。この社長さんと会談した海江田万里経済産業大臣の顔が、心なしかほころんでいるように見えた。ともかく、アメリカの軍隊とGE、日本の日立と東芝、この仏アレバ、それに猫の手・・・もう誰の力を借りてもよいし、何でもやってよいから、この緊急事態を早く収束してもらいたいものだ。そうでないと、この美しい東日本が、放射能という身に見えない敵に、刻一刻と汚染されていってしまう。
(2011年 3月31日記)