3月の上旬も終わり、そろそろ中旬に入ろうとしている。毎年2月の半ば頃には、「河津桜が満開」という記事や写真を目にするのが常である。去年は、私の同い年の友人が奥様と一緒に「河津桜、見に行ってきた。きれいだったよー。」と語っていたので、私も「よし、来年には行ってみよう。」と思ったというわけだ。
ところが、それから1年が経ち、さあそれでは行こうかと思ったそのとき、あちこちの親類で病人やケガ人が続出し、そのお世話で私も家内も東奔西走という仕儀となった。そういうわけで、肝心の2月下旬から3月上旬までの2週間がつぶれてしまい、とうとう今年も、河津桜とは縁がなかったと思うほかなかった(後日談を参照)。
そんなある日、朝日新聞を読んでいて、満開の桜と黄色い花の写真が目に入った。それは、神奈川県松田町の西平畑公園の様子で、なんと河津桜と菜の花が同時に見られるというわけである(注)。それでは、代わりにこれを見に行こうかということになった。駅前探検倶楽部で調べると、家から千代田線で代々木上原駅まで行き、そこで小田急の箱根湯本行きに乗り換えて新松田駅で降りるとよいらしい。ただし、小田急の急行には1時間20分も乗っていなければならない。この点は、面倒なところではあるが、その倍の時間をかけて伊豆半島の先端の方に行くことに比べれば、まだマシというものである。
駅に行くと、3月15日から、千代田線北千住駅から箱根湯元駅まで新型ロマンスカーの運転を始めるというポスターがあった。これにも乗ってみたいねと話をし、それを見て代々木上原駅まで行ったところ、目の前を現行つまり旧型のロマンスカーがゴトゴトと通り過ぎていったので、思わず顔を見合せてしまった。このタイプも、子供が小さい頃、箱根に行くためによく乗ったものである。先頭車両の展望カーのガラス席にも乗った。その先頭のガラス窓の優雅な曲り具合を、特に気に入っていた。もうこれも世代交代かと思うと、何かしんみりとした気がする。
そんなことを思いながら急行に乗り、下北沢、成城学園前、新百合ヶ丘などの駅が通り過ぎて行った。実は私たち、上京してから、かれこれ40年近くになるのだが、住んできた地域が営団地下鉄(今風にいえば、東京メトロ)で通勤できるところだったことから、小田急を始めとして私鉄沿線にはあまり詳しくない。だから、耳に入る駅名が新鮮に聞こえてならず、ちょっとした小旅行の気分であった。
ただ、あまり乗り慣れない電車に乗っていると、ときどきとんでもないことが起こるので、油断がならない。新百合ヶ丘駅で多摩方面へ、相模大野駅で江の島方面に枝分かれするようで、しかもどこかの駅で後ろ3両がどこかへ行ってしまうとか何とか放送している。やっぱり・・・。とか何とか思っているうちに、新松田駅に着いた。秦野の先で、あと10分ばかりこのまま乗って行けば、もう小田原というところである。
新松田に住んでおられる方には申し訳ないが、文字通りの田舎町である。東名高速道路越しにふと山肌を見れば、円筒形のガラスの建物が目に入った。その下の山肌は桜色に染まっている。どうやらここが目的地らしい。JR松田駅に行くつもりだが、シャトルバスには長蛇の列ができている。そこで、ぶらぶらと歩いていくことにした。そういうそぞろ歩きをする人は結構いたが、気づいてみれば周りの人はお年寄りと小さな子供連ればかり。お年寄りはわかるが、なぜ小さい子たちも桜を見に行くのかと思っていたところ、その疑問は山の中腹あたりで氷塊した。長いすべり台があって、子供たちはそれをすべってキャアキャアとはしゃいでいる。そればかりか、そのさらに上には蒸気機関車と小田急ロマンスカーの動く模型があって、それが子供たちの人気の的らしい。
それはさておき、われわれは黙々と登っていくと、山の中腹に確かに満開の桜と、その下に菜の花が咲いている一角があった。それの写真を撮りつつ足をさらに上に運んでいくと、視界が一挙に開けた。右手前から酒匂川が蛇行して流れ、市街地を通り、その先にある相模湾にそそいでいる。久しぶりに、すっきりとした気分になった。
(注)こちらの河津桜は、本場の河津から260本を移植したものという。そしてこの西平畑公園は、
松田山ハーブガーデン(0465-85-1177)ともいうらしい。
(2008年3月9日記)
【後日談】友人が昨年、河津桜を見に行ったのが2月の半ば頃だったので、今年も同じ時期に咲くだろうから3月も9日になったら、もうみんな散ってしまっているだろうと考えたのは、私の早合点だったようだ。インターネットで調べたところ、まず河津桜の咲く時期は毎年違う、それから花については咲いたらすぐ散ってしまう染井吉野などとは異なり、1ヵ月くらいは優に咲いているらしい。今年の満開は2月下旬だったそうだから、3月9日ならまだ十分に楽しめたようだ。
私も、これだけインターネットを利用しているのに、たまたまこの件については、事前に検索をしなかった。どうやら、意外なところに盲点があったという気持ちである。まあ良いか・・・。また来年、本物の河津桜を見に行く楽しみが残ったと考えよう。
(2008年3月10日記)