3月も春分の日となり、桜もそろそろ咲きはじめるようになった。横浜港に、クルージング途中の「オーロラ号」と「飛鳥二世」が立て続けに接岸すると聞いて、久しぶりに横浜港に行ってみた。ところが残念なことに予定を早めて出航したとのことで、空振りに終わった。それでも、みなとみらい線の元町中華駅を出発して、山下公園、氷川丸、大桟橋、赤レンガ倉庫、内航客船ターミナル、クイーンズ横浜と歩くと、なかなか良い運動になった。山下公園を過ぎると、海上保安庁の最大の船「しきしま」が鎮座しており、その横の地上には、例の北朝鮮の工作船が陳列されていた。
歩く途中、クイーンズ横浜で食事でもと思ったが、どの店もまあ大した食事でもないのに、若い人たちが押すな押すなの盛況で、コンビニですら、レジを待つ客が店の外にまで並ぶという有様だった。これは参ったと思い、そのままインターコンチネンタル・ホテルを通ってぷかり桟橋へと歩いていったところ、桟橋の建物の二階のレストランはとても空いている。入り口にタキシードを着た男の人が出てきて、うやうやしく案内してくれた。シーバスの発着を眼下に見える席について、ほっと一息入れたのである。
コースの食事をしながら、出入りするシーバスや、行きかうプレジャーボート、それに練習中のカッター船を眺めて、なかなか面白い風景だった。ウェイトレスにも教育が行き届いていると思ったら、インターコンチネンタル・ホテルが運営していたレストランだった。お値段も、街のそれと比べれば高くて倍近いが、それなりの内容とサービスに満足した。周囲を見回すと、われわれのような余裕のある中年ばかりである。
そこからシーバスで横浜駅に向かったのだが、到着した桟橋からデパートのそごうの地下を通って駅に歩いて行った。かつてのテパ地下といえば、あらゆる高級食材が並んでいたものだが、このそごうでは、そうした食材を販売しているお店が、同時に簡単な弁当のようなものを売っている。その値段は数百円程度で、これがよく売れているのである。中には屋台のように、簡素で安い食事を提供している店もあって大盛況となっている。どうやら、こういうことから見ても、格差社会がじわじわと拡がっているように思えるのである。
余談になるが、3月18日から首都圏で、JRのスイカと東京メトロなどの私鉄各社のパスモというICカード乗車券の相互運用が始まった。これはなかなか便利で、駅で運賃表を見上げて切符を買うという手間が省ける。私の今回の横浜行きも、自宅から東京メトロに乗ってまず渋谷に出、東急の特急を使ってみなとみらい線元町中華街駅まで、ひとつのスイカ・カードが通して使えたので、その威力を肌で感じた。
しかし、問題もある。そもそも、いくら残っているのか、改札を通ったその一瞬だけ表示板に出てくるが、うかうかしていると見逃しそうだ。そうかと思うと、クレジットでチャージする機能も、私のようにいつもは自動車を使ってたまに電車に乗るというタイプの人には、「これだけ使ったから、まだどれだけ残っていそうだ」という感覚が生じることがないので、何となく心配となる。
また、私のように子育てを終えた人間には関係のない話であるが、現在子育て中の親の中には、頭の痛くなる人も出てくるに違いない。というのは、未成年の子にこのスイカやパスモというICカードを与えておくと、電車に乗るだけでなく、学校の通学途中でいろいろな買い物もできるので、思わぬ高額な出費となるかもしれないからである。これまでは、たとえば「月千円のお小遣いの範囲で、使いなさいよ」といって子供に千円の現金を渡しておいたら、その範囲でその子が自主的に使うということで済んでいた。ところが、このICカードは、子供に沢山のお金を無限定に与えているのと同じである。お菓子を食べたいと思えばピッ、コーラを飲みたいときもピッ、何でもピッという音で手にはいると勘違いする子も出てくるのではないか。もちろん、月末に親のところにクレジット会社から沢山の請求が来て、叱られるとは思うが、社会的な大騒ぎにならないことを祈りたい。
(2007年3月21日記)