煙出し人形
2006.12.24 Sunday | by 悠々人生
チェコにほど近いドイツの山地エルツ地方にあるザイフェン村(Seiffen)は、煙を出す木彫りの人形で有名である。人形の胴体の上半身部分を外し、空洞になっているその中に細長い円錐形のお香を置いて火をつけ、再び上半身をかぶせる。そうすると、口からプカーリ・プカーリと優雅な煙を出すし、芳しい香りが部屋いっぱいに漂う。いずれの人形も、木目が非常に美しく、ちょっと猫背ながらいかにも田舎で素朴な表情が良い。
この右手前のウェイトレスのお姉さんは、ミュンヘンのビヤホールで見た人とそっくりである。そばかすまで描いてあるなんて、実に芸が細かい。実際このとおりに、両手で最大12人分の重たいジョッキを運んでくるのだから、相当な力持ちのお姉さんたちである。
少し前のこととなるが、ヒトラーが昔そこで演説をしたという有名なビヤホール(ホーフブロイハウス)でビールを飲み、ヴァイス・ブルスト(白いソーセージ)などを一人さびしくつまんでいたら、向かいの歳をとったドイツのお爺さんにからまれてしまった。その人は鳥打帽をかぶり、顔は既にビールで真っ赤である。下手な英語で
「おまえ、ヤパーナ(日本人)か!」
「はあ、そうですが、な、何か・・・。」
「この間の戦争は、お互い、負けちゃったよな。」
【な、なんて古い話をするんだ・・・・】と不安になる私。
【言葉がわからない振りをするか、いやいやもう遅いよな・・・】
「ヤー(いやまあ)、そうでしたね。」
「今度は、イタ公抜きでやろうな。あんな奴らと一緒に戦争したから負けたんだ。」
【なんだ、これをいいたかったのか。】とほっとした私。
そこで調子に乗って日本語で汽笛一声新橋を歌い、回りの拍手喝さいをもらってしまった。ひょっとして、ドイツの軍歌に似ていたのかもしれない。これこそ、旅の恥はかき捨ての類かもしれないと、あとで反省しきり。
話が少し逸れてしまったが、これは300年の伝統がある人形とのことで、かつては鉱山で栄えた町だが(Erz=「鉱石」)、雪に閉ざされる冬に、村人がブナの樹などを材料に作り始めたのが始まりという。ミュンヘンなどではくるみ割り人形が有名であるが、この煙出し人形(smoking man)も最近とみに人気を集めている。ザイフェンには、教会を中心に150近くの木彫りの工房があり、昔ながらのマイスター制度の下で作り続けているとのこと。
ネットで調べると、日本に「エルツおもちゃ博物館・軽井沢」というものまであった。日本って、何でも揃う本当に不思議な国である。
(2006年12月24日記)