山車人形「日本武尊」




 日本橋三越に買い物に行こうとして、地下鉄二重橋駅で降りて、丸の内を通って日本橋まで歩いていった。途中で、新丸ビルの地下から一階に出たところ、ちょうど千代田・江戸祭り2006で、各地からの山車人形が展示されていた。去年は江戸城を目指して山鉾巡行を派手に行っていたが、今年はいわゆる裏作の年で、そんな派手なことはしないようだ。おかげで、じっくりと山車人形を見物することができた。山車は、

 羅陵王(八王子市横山町三丁目)、
 張飛翼徳(栃木市万町三丁目)、
 猩々(港区赤坂表一二町)、
 小野道風(千葉県酒々井町)、
 日本武尊(本庄市宮本町)、
 神功皇后(高崎市八島町)、
 山車雛形(川越市)

などである。今でこそ映像の世紀なので、これらを見てもそんなものかと思うが、そういうものが珍しかった江戸や明治期の人々がこれを先頭に祭りをしたのであるから、見物人は、さぞかし感激したのではなかろうか。

 冒頭の写真は、埼玉県本庄市宮本町自治会所蔵の所蔵の、山車人形「日本武尊」であり、縁起によると、明治15年に三代目法橋・原舟月によって製作されたもの。人形は木彫りで、目にはガラス玉、歯には象牙を使用している。顔は本来は男性であるが、敢えて「やさしい」表情の顔つきに仕立ててあるとのことである。ちなみに、町名の額は、山岡鉄舟の揮毫という。




(2006年10月28日記)



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世界の名画百選

 休日に豊洲へ行ってみようと、地下鉄の日比谷駅で、有楽町線に乗り換えようとした。そうしたところ、改札を出てすぐのところに、映画のDVDをたくさん並べて売っていた。普通なら、そのようなものに全く気をとめずにさっさと通り過ぎるところだが、家内が「あら、名画だわ」と言って、立ち止まった。確かに、懐古趣味をそそる名画ばかりである。第三の男、ローマの休日、幌馬車、我が谷は緑なりき・・・なるほど、どれもこれも、かつて見て、とても感激した記憶のある懐かしい映画である。しかも、一枚500円という格安の値段となっている。著作権法改正による著作権の存続期間を延長する規定を巡る最近の裁判の影響か、それともそもそもこんな古い映画のDVDなどは値段が安いのか、よくはわからないが、いずれにせよ求めやすい価格であることは事実である。そんなことが私の頭をよぎっているうち、既に家内はどれを買うかと品物選びの真っ最中である。私も、並んでいるDVDのスタンドの前へと、ふと吸い込まれるように入っていった。

 よく考えたら、これらはいずれも50年以上も前の作品なので、年齢的に60歳までにはしばらく間のあるわれわれの歳からすると、これらを見たというには、いささか年代が古すぎると思われるかもしれない。しかし、われわれが懐かしがるにはそれなりの訳があるのである。というのは、私たちの二人の子供が小学校の高学年から中学校にかけて、世界の名画を100作以上を選んで、見せたのである。今から思うと、よくそんなことをしたと考えるのであるが、家内ががんばって、何年かをかけて、テレビで放映された世界の名画をまず録画した。当時は現在のDVDのような便利なものはなかったので、あの大きなVHSビデオテープを百数十本ため込んだのである。そうしておいて、子供の年齢に応じたものを選び、夏休みなどの暇なときに次々と見せていったという次第である。

 現在のハリウッド映画は、コンピューターのCGでできた派手なアクションや映像で作られた人工的な怖さを追い求めるものがほとんどである。ジュラシック・パークで有名なスチーブン・スピルバーグ監督の作品などは、その典型である。ところがこれらの作品は、見終わったら「ああ、こわかった」で、おしまいである。これに対して、昔の名画は、さまざまな人と人とが織り成す人間模様そのものを描いている。ペーソス、貧しさ、悲しさ、ジョーク、恋愛など、人が本来持つべき感情と感動が詰まっているから、見終わると、これらがすべて観客の心に残るというすばらしさがある。自分たちの子供の頭が、漫画やゲームなどで馬鹿になるよりはと思い、手間はかかってもこうした名画を見させることで、格好の情操教育ができたと思っている。ちなみに、これが功を奏したかどうかはわからないが、我々の上の子は医者になって博愛精神が旺盛であるし、弁護士となる予定の下の子は、人の心の機微をよく汲み取ることができる人間となったと思う。

 近頃の新聞をみると、家庭内暴力や引きこもり、児童虐待などが話題となっている。その原因として確かに学校教育にも過半の責任があるとは思うけれども、やはり教育の基本は、家庭の中にあると考える。そういう時代にあって、あなたの子供が多感な頃にこそ、この世界の名画100作品を見せるという試みをやってみてはいかがだろうか

 以上のようなことを、大学の講義で口にしたところ「先生、その世界の名画100って、どんなものがあるんですか?」と聞かれてしまった。そこでそれは次回紹介しようということになり、早速その週の金曜日の午後10時頃から、翌土曜日の午前1時まで延々とかかって、家内と一緒にリスト作りをした。家内は、映画の題名と主演俳優や監督を実によく覚えている。私が「ほら、ヘップバーンの切手のあれ、あれ」とか、「チャップリン」のこんな歌の映画」とかいう、そのわずかなヒントでも、次から次へとその映画の題名や俳優の名前が出てくるのには、ほとほと感心させられた。

 その一方、特に俳優さんについては、当然のことながら、お互いの趣味がすこし違っている。たとえば、私は女優ではカトリーヌ・ドヌーブやジュリア・ロバーツなどはいいなと思うが、家内はそうではないらしい。ところが、家内はジャック・レモンの雰囲気がいいとしているが、私はあんな惚けたおじさんがいいとは思わないといった調子である。それから、たとえばスタンド・バイ・ミーは、私は評価し、家内はそうではない。しかしこれなどは、12歳の少年の経験を描いている映画なので、男と女の相違からくる違いなのかもしれない。それから、昔の日本映画については、たまたま最近、小津安二郎監督や成瀬巳喜男監督の特集をやっていたので、そこで再び鑑賞したのもある。

 なお、以下のリストでは、二人の意見が合わなくとも、また最近の映画であっても、これは見ておいたら面白いと私が思ったものを載せている。それは、ペリカン文書、エリン・ブロコビッチ(どちらも、ジュリア・ロバーツ)、フラッシュダンス、キューティ・ブロンド、イングリッシュ・ペイシェント、鉄道員 (ぽっぽや)、千と千尋の神隠しなどである。しかし、これらは、アメリカの法律界の事情や風俗を知るには面白いが、さりとてこれから末永く語り継がれるべき名画という水準には未だ達していないものかもしれない。要するに、私が勝手に選んだものであって、これから半世紀後に残っているかは、保障の限りではないので、ご承知おき願いたい。


      世界の名画リスト

 順不同。おおよそのジャンルに分けてある。

1.美男美女系

 ローマの休日     (オードリー・ヘップバーン)
 シャレード      (オードリー・ヘップバーン)
 ティファニーで朝食を (オードリー・ヘップバーン)
 おしゃれ泥棒     (オードリー・ヘップバーン、ピーター・オトール)
 静かなる男      (ジョン・ウェイン、モーリン・オハラ)
 誰がために鐘は鳴る  (イングリッド・バーグマン)
 カサブランカ     (イングリッド・バーグマン、ハンフリー・ボガード)
 紳士は金髪がお好き  (マリリン・モンロー)
 百万長者と結婚する方法(マリリン・モンロー)
 風と共に去りぬ    (ヴィヴィアン・リー、クラーク・ゲーブル)
 ジェーン・エア    (ジョーン・フォンテーン)
 プリティ・ウーマン  (ジュリア・ロバーツ、リチャード・ギア)
 
2.ハリウッド型

 ベン・ハー   (チャールトン・ヘストン)
 クレオ・パトラ (エリザベス・テーラー)
 八十日間世界一周(デビット・ニーブン、シャーリー・マクレーン)
 空中ブランコ(バート・ランカスター、トニー・カーティス、ジーナ・ロロブリジータ)
 大脱走     (スティーブ・マックィーン)
 パピヨン    (スティーブ・マックィーン)

3.青 春 系

 理由なき反抗    (ジェームス・ディーン)
 エデンの東     (ジェームス・ディーン)
 フラッシュダンス  (ジェニファー・ビールス)
 キューティ・ブロンド(リーズ・ウィザースプーン)

4.ミステリー系

 第三の男 (オーソン・ウェルズ)
 鳥    (ヒッチコック監督)
 めまい  (ヒッチコック監督、ジェームス・スチュワート)
 裏窓   (ヒッチコック監督、ジェームス・スチュワート、グレース・ケリー)
 疑惑の影 (ヒッチコック監督、ジョセフ・コットン)
 舞台恐怖症(ヒッチコック監督、ジェーン・ワイマン、マレーネ・デートリッヒ)
 レベッカ (ヒッチコック監督、ローレンス・オリヴィエ、ジョーン・フォンティーン)
 ガス燈  (シャルル・ボワイエ、イングリッド・バーグマン)
 歴史は夜作られる(シャルル・ボアイエ)
 ペリカン文書(ジュリア・ロバーツ)

5.名 作 系

 オセロ  (オーソン・ウェルズ)
 ハムレット(ローレンス・オリヴィエ、ジーン・シーモア)
 嵐が丘  (ローレンス・オリヴィエ)
 若草物語 (エリザベス・テーラー)
 老人と海 (スペンサー・トレイシー)
 クリスマス・キャロル(ディケンズ原作、いろいろな版がある)
 西部戦線異常なし(レマルク原作)
 イングリッシュ・ペイシェント(恋愛系、 レイフ・ファインズ、ジュリエット・ビノシュ)

6.チャップリン系

 モダン・タイムス
 黄金狂時代
 独裁者
 殺人狂時代
 キッド
 ライムライト
 街の灯

7.ミュージカル系

 マイ・フェア・レディ(オードリー・ヘップバーン)
 雨に唄えば     (ジーン・ケリー)
 オズの魔法使い   (ジュディー・ガーランド)
 ウェスト・サイド物語
 サウンド・オブ・ミュージック(ジュリー・アンドリュース)
 シェルブールの雨傘 (カトリーヌ・ドヌーブ)
 王様と私      (ユル・ブリナー)
 メリーポピンズ   (ジュリー・アンドリューズ)

8.社会派系

 自転車泥棒     (イタリア)
 屋根        (イタリア)
 道         (イタリア、フェデリコ・フェデリーニ監督)
 花嫁の父      (スペンサー・トレイシー、エリザベス・テイラー)
 招かれざる客(スペンサー・トレイシー、キャサリン・ヘップバーン、シドニー・ポワチエ)
 我が谷は緑なりき  (モーリン・オハラ)
 アパートの鍵貸します(ジャック・レモン、シャーリー・マクレーン)
 白鯨        (グレゴリー・ペック)
 怒りの葡萄     (ヘンリー・フォンダ)
 スタンド・バイ・ミー(スティーヴン・キング原作)
 ブルックリン横町  (エリア・カザン監督)
 エリン・ブロコビッチ(ジュリア・ロバーツ)
 アバウト・シュミット(ジャック・ニコルソン)
 戦場のピアニスト  (ロマン・ポランスキー監督)

9.ディズニー系

 シンデレラ
 ピーターパン
 眠れる森の美女

10.欧 州 系

 ネバーエンディング・ストーリー(独)
 ショコラ   (仏、ジュリエット・ビノシュ)
 ぼくの伯父さん(仏、ジャック・タチ)
 戦争と平和  (ソ連、リュドミュラ・サベーリエワ)
 ウェールズの山(英)

11.アジア編

 山の郵便配達 (中国)
 初恋の来た道 (中国)
 リトル・チュン(香港)
 ムトゥ 踊るマハラジャ(インド)

12.日本映画

 東京物語 (小津安二郎監督、原節子、笠智衆)
 羅生門  (黒澤明監督)
 影武者  (黒澤明監督)
 近松物語 (溝口健二監督、長谷川和夫、香川京子)
 大阪物語 (溝口健二・吉村公三郎監督、市川雷蔵)
 めし   (成瀬巳喜男監督、原節子、上原健)
 驟雨   (成瀬巳喜男監督、原節子、佐野周二)
 やぶれ太鼓(木下恵介監督、阪東妻三郎)
 喜びも悲しみも幾歳月(木下恵介監督、高峰秀子、佐田啓二)
 二十四の瞳(木下恵介監督、高峰秀子)
 蒲田行進曲(松坂慶子、風間杜夫)
 鉄道員 (ぽっぽや)(高倉健、広末涼子)
 千と千尋の神隠し(宮崎駿監督)



(注) 洋画の内容は、淀川長治さんのサイトを参照するとよい。




(2006年10月25日記)


  



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徒然033.人騒がせな健康診断

 私は、毎年この季節になると、健康診断を受けることにしている。いつも特に問題はないのだが、これまでのところ一度だけ、胃の精密検査が必要といわれたことがある。そのときは、半信半疑で胃カメラを飲む検査を受けた結果、何ともなかった。なーんだという感じである。それ以来ここ数年の間、全く何の問題もなかったが、今回はじめて「視神経乳頭陥凹」などというおどろおどろしい注釈を付けて、眼科にて精密検査の必要ありといわれた。

 これは困ったと思ってインターネットで調べてみたところ、どうやらこれは緑内障の症状で、もともと誰にでもある視神経乳頭の陥凹つまり「へこみ」が、眼圧が高まってますます凹んでしまい、悪くすると眼が見えなくなってしまうらしい。これは参ったなと思いつつ、すぐに指定の眼科に行ってみた。待合室で待っていると、ついつい、なぜこんなことになったのかと考えてしまう。「そういえば、特に一昨年は商売繁盛で、読んだ法律のページ数は例年の3倍にもなったから、あれがいけなかったのかもしれない。正月休みにも仕事を持って帰って、おせち料理をとるなく働いていたからなぁ」、「いやいや、ホームページの作成が面白くて、つい夜なべしてしまったことがよくあったからかな。ほどほどにしなきゃ」、「それより、今年の春から始めた教授職で、山のような教材を2〜3ヶ月で作ったから、それが眼にきたのかもしれない」、「週末にいつもプレーしているテニスでも、最近は動体視力が衰えたせいか、ボレーがうまくいかないことがあるけど、このせいか」などと、とめどがない。ヒマな時の悪い話ほど、連想がたくましくなるというのは、本当である。

 そのうちに名前を呼ばれて先生の部屋に入ると、最初に出てきたのが、ウチの娘のような若い医者である。クルクル回る目をもって、眼圧や眼底検査に視野検査など、ひと通りのことをしてくれた。この視野検査というのも、片眼を白くて丸い半球に突っ込んで、光が見えたらボタンを押してくれというものである。眼を動かさずに、どこが見えるかという検査なのだが、白くて小さな光が、縦横に一瞬だけ出てくる中で、せわしなくカチャカチャとボタンを押さなくてはならない。何かに似ていると思ったら、はるか昔の若いときにやっていた、インベーダー・ゲームそっくりである。なるほど、あんなものが、こんなときに役に立つのかと悟り、思わず笑いがこみ上げてきた。いずれにせよ、この検査はゲーム感覚でしなければならないので、普通の老人には無理だろうなと考えながら、小さな光と、しばし格闘したのである。しかし、これがよかったらしいので、何が幸いするかわからないものである。

 さて、一連の検査を終えて、その娘医者の話では、「まったく問題ありません」ということで、安心した。それでは、なぜこんな再検査の指示があったのかと問うたところ、「では、別の医者にも診てみらいましょう」といって、中年の医者が出てきた。その人がひととおり見たところ、「まあ、健康診断では、通常は問題ないかもしれないが、念のため検査をしておいた方がよいと思うものは、ともかく再検査を指示しておくということがよくあるものなので、この眼底の写真も、これで問題あるとする医者の数はむしろ少ないと思う」というご宣託であった。やれやれ、たった1日の間とはいえ、あれこれ心配して損をした気もしないではないが、健康には気を付けようという気持ちを新たにしてくれた出来事であった。

 そういえば、週末の私のテニス仲間の希望の星であった御年66歳のプレーヤーが、心臓に問題がでてきたという理由で、辞めたばかりである。それなのについ先日は、その次に高齢の63歳の人が「もうしんどいから、テニスをやめたい」と言い出したので、「そんなこと、言わないで、50歳台の私が最高齢になってしまう。あなた、まだまだやれますよ。それにプレーを突然やめると、老けますよ」と止めた。この最後の言葉が効いたのか、幸いなことに、その人は翻意してまだ続けてくれているが、あと1年もすれば、私が最高齢になるかもしれない。その日が来るのが、おそろしい気がするのである。しかしその反面、せっかくだから、先代の最高齢者の歳まで、がんばってみようではないかとも思っている。




(2006年10月18日記)



カテゴリ:徒然の記 | 23:13 | - | - | - |
御嶽渓谷の散歩



 秋めいて来た土曜日、紅葉にはいささか早いが、ふと思いついて家内と奥多摩方面に出かけた。行き先は沢井の「ままごと屋」である。電車に乗る直前に電話をしたところ、予約ができた。ここは、眼下に多摩川の清流が流れていて、眺めがよい。駅前にある澤乃井という造り酒屋が昔からやっているお店である。

 ままごと屋というのは、かつては精進料理屋のようで、お世辞にも旨いとはいえなかったが、最近はかなり改善されたと聞いていた。座敷に通されて、清流を見つつコース料理を食べるという趣向なのだが、なかなかの工夫がみられる。たとえば、近くの玉堂記念館と話をつけたとみえて、テーブルに置かれる紙折敷には、「とつぎゆく はれ着の孫のすぎゆきし 路次にのこれる 白菊のはな」と玉堂の句があるのには、感心した。また、料理の味もなかなかのもので、四季桶の内容は、材料の素の味を生かして舌に絶妙、見て絶品というところである。食べてみて、絶対に後悔しないと保障する。




 さて、それから御嶽渓谷の横の遊歩道を御嶽駅に向かってそぞろ歩きをした。空気はおいしく、コスモスなどの路地に咲く野の花々も美しい。川に目をやると、若人がカヌーをしている。川の流れは速いし、川中にはところどころに大石もある。ぶつかったら、ひとたまりもないと思うが、その中をペダルを上手にあやつって下ってくる。思わず歩くのを忘れて、しばらくペダルさばきに見とれていた。再び歩き出し、そこからしばらく行って川に架かる橋を渡り、玉堂記念館に着いた。


 玉堂は、明治6年生まれの文化勲章受章者で、既に15歳にして、京都に弟子入りし、すばらしく精密な絵を描いていた天才肌の人である。その描いた絵はどれも、なかなか男っぽい。昭和32年に84歳で没したが、晩年にこの地で隠棲したという。スケッチ・ブックがいくつか展示されていたが、確かにとても上手である。また、庭も枯山水を取り入れていて、清冽な印象を受けた。




(2006年10月14日記)



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徒然032.パーティの話題

 外国に赴任すると、日本ではまず経験できないようなことを体験することがよくある。その一つがパーティで、公的や私的のいろいろなものがある。外交団どうしが呼び合うもの、現地政府が呼んでくれるもの、日系企業のトップが交代するもの、日本からの代表団が主催するもの、それはもう山のようにあり、シーズンになるとほぼ毎日、同じようなメンバーと顔をあわせることになる。男同士ならば、仕事の話でもしていれば、何時間でも座を持たせることができる。しかし、外国でのパーティは夫婦同伴が原則なので、女の人を相手に一体どのような話題を持ち出そうかと、頭を悩ますことになる。それに、どうしても英語になってしまうので、その面からも話せる話題に制約がある。よく日本では、天候の話がいいというが、私の場合は東南アジアにいたので、いつも日中は晴、夕方は夕立である。それに季節というものはなくて、強いて言えば、あるのは、Hot, Hotter, Hottest ということだから、単に「暑いですね」で終わってしまうので、この手は使えない。

 ある大手銀行の現地支店長の話であるが、その人も、現地に赴任した当初は、パーティなどで会うローカルの人たちに対して、英語で何を話していいのかわからなかった。そこで、いろいろと考えた結果、「どんな人でも、レストランで食事ぐらいはするだろう。そのレストランのことを話題にすればいい」と思いついた。そこでその支店長は、せっせと現地の高級レストランめぐりを2ヶ月間で済ませて、メニューや雰囲気、ロケーションを頭にたたき込んだ。そして、会う人にそれを語ったのである。その話は大いに受けて、少なくともパーティで顔を合わせる2〜3回分の話題にはなったというのである。

 しかし、私たちの場合は、そうグルメではないし、またあまり太りたくもない。それにベビーシッターがいるとはいえ、子供のことが気がかりである。そもそも高級レストランには、子供を連れてはいけないのである。そこで、家内が言い出したのか、どこからか聞いてきたのかは忘れてしまったが、女性相手には、3C、つまりClothing, Cooking, Children ということで、ドレス、料理、子供の話題を取り上げることとした。これらのうち少なくともひとつは、どんな女性でも関心を示すだろうというわけである。同じことで男性には、BCG、つまりBusiness, Culture, Golf の、仕事(肩書き)、文化、ゴルフを話すこととした。これなら、教養のある人であれば皆それなりの関心があるだろうし、この程度の英語なら簡単で、それこそ地のままでいける。

 そのようにやっていくと、次第に慣れていき、知人も増えた。もっとも、そのためにはパーティ中に単に酒を飲んで雑談するだけというわけにはいかず、それなりの努力が必要である。つまり、出席者の顔と省庁・会社での肩書き、前回どの人に何を話したか、その人は何を言っていたかなど、酔う寸前の頭に叩き込んでしまわなければいけない。どの人にも初対面の最初は、さすがに疲れてしまったが、何回かパーティをこなすうちに、自然とこれらの情報が頭にインプットされるようになった。

 そして思ったのであるが、こうやって付き合うことができるのは、せいぜい3〜4回である。知人を作ることには役に立つが、それ以上深く付き合おうとすると、それこそ人柄を表すような面白い話題が必要である。このあたりから、無理しないでそのような話題を自然に話すことができるかどうかで、「気の合う」友人が出来てくるのである。そして、非常に面白いことに、そうやって出来た私の友人は、私の前任者の友人とは異なるのである。同じような仕事をしているのに、やはり人格の相違というものが、思わぬところに出てきてしまうのであろう。
 
 また、パーティでの様子を見ていると、話の上手な人と、そうでない人との差がよくわかる。話がうまい人というのは、何も立て板に水のようにぺらぺらと話す人のことではない。自分のことやいろいろな話題を次々と面白おかしく話しながら、相手の反応を見てその内容というか、繰り出すカードを変えていき、それであなたはどうですかと言わせるように仕向けるのである。つまり、自分の情報をそれとなく与えつつ、相手からも情報を引き出すことができる人のことである。外交はギブ・アンド・テイクであるから、まさにそれを実践している。

 これに対して、話が下手な人というのは、いくつかのタイプがある。ひとつは、質問ばかり、それも時としてこちらが言いたくないことを聞いてくる人である。英語が下手な人が、自分はしゃべりたくなくて相手にしゃべらせようとするのなら、理解できないわけでもないが、初対面やさほど親しくない日本人からこれをやられると、勘弁してもらいたくなる。2番目は、一方的にしゃべりまくる人である。聞きたくないことを延々と聞かされることほど、面白くないことはない。3番目は、話題が面白くない人である。高座なら、お代を返してもらいたくなるようなケースである。4番目に、場の雰囲気に合わないことを言ったりしたりする人である。こういう人が来ると、気が付いてみるとその場にいた人たちがひとり減りふたり去りというわけで、いつの間にか、話の輪が消えてしまっている。

 5番目は、確かに以前に会っているのに、その人物がまた同じことを話しかけてきたり、聞いてきたりする人である。こういう人の頭は、パーティが終わるとリセットされてしまうようだ。6番目は、日本人にありがちなことで、普段付き合っているグループの人たちだけで固まってしまって、それ以外の特に外国人とは決して話そうとはしない人である。英語ができないということもあるのだろうけれども、こういう人たちが主催するパーティは、最悪である。そして、以上の番外として、近寄ってくるのだけれども、何もしゃべらなくて黙っている人にも非常に困ってしまう。これなどは、何のためにパーティに来ているのかという気がする。たぶん、食べにきているだけなのかもしれない。

 でも、日本人の奥さんたちを眺めていると、それなりのパーティ・ドレスを着ていて、皆なかなか美しい。おや、あの首から後ろにかけてひらひらとしたショールを垂らしている青いロング・ドレスはなかなかいい。それを着ている美人は・・・・誰かと思ったら、うちの奥さんだったりして、いやまあ・・・。




(2006年10月4日記)



カテゴリ:徒然の記 | 23:19 | - | - | - |
思い出のカバくん

 私は日曜日の午後にはいつも神宮でテニスをしているのだが、その前に体を動かしておくとテニスの調子がよい。というわけで、きょうも家の近くで早足散歩をしていると、上野動物園がたいそう賑わっている。都民の日として、入場無料らしい。親子連れについて不忍口から入っていくと、いるいる、なつかしい面々である。





 20数年前に、うちの子たちをつれて、何回も動物を見に来たものだ。長い列をものともせずにモノレールに乗ったこともある。娘は、この写真のサイのような大人しい動物よりも、隣にいる豪快なカバが好きだった。カバが水中から突然現れて大きな口をどーっとあけると、息子を含めて小さな子供たちは泣きながら逃げ惑っているのに、うちの娘だけはカバの大口を指差してアハハーッと大声で笑っていた。3歳になるかならないかの頃である。一瞬、これは只者ではない、女だてらに将来は命知らずの冒険家になるかもしれないという予感がしたものである。





 それから時が経ち、その予感は当らずも遠からずであった。女外科医として救急車に同乗し高速道路の事故の現場に駆けつけ、渋滞で車が動かないとみるやその車を捨てて鞄を抱えて2キロほど走って助けに行ったという話を聞いた。あるいは深夜に救急外来にいて、事故に遭ったばかりの患者のMRI検査の傍らで必死になってちぎれた耳を縫ったとかいう話を聞くにつれ、ああやっぱりと、このカバの話を思い出してしまうのである。「おんな植村直己にならなくてよかったなぁ。そんなことになったら、世界七大峰に登るたびにヒヤヒヤしなければならなかったことだろうね」と家内に言った。すると、「まだ、わかりませんよ。何しろ若いから先が長い」と、のたまった。

 きょうの話に戻るが、思い出のカバくんの大口を撮ろうと待ち構えた。しかし、どうしたことか二匹とも、水中で昼寝をしていた。そんなバカなと思うところであるが、水中で寝そべって、たまに鼻だけを出して呼吸をし、また潜ってしまう。いまどきのカバは、大口を開けて子供たちを驚かそうという元気は全くないようだ。この世界も高齢化しているのかもしれない。




(2006年10月1日記)


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最中「銭形平次」





 ご存じ神田は橘昌文銭堂の最中「銭形平次」・・・といっても、誰も知らないかもしれないが、自宅から神田の古本屋街に歩いていくと、神田すずらん通りにこれを売っているお店がある。神保町駅A7出口からすぐのところにある。日曜は休みだが、土曜も祝日も開いている。それはともかく、「銭形平次」最中の縁起を文銭堂の宣伝文句からみると、

 平次の投げ銭は、京都方広寺の大仏の化身とされ
 縁起のよいものと珍重されました。
 大納言(小倉あん、小豆こしあん)、挽茶、
 栗きんとんの四種類があります。
 神田明神と銭形平次との結びつきで
 神田名物として親しまれている最高級最中です。


 それで、お味はというと、何のことはない。普通の最中である。さして甘くはないのでそれは現代的な点だが、昔ながらの最中を食べつけている中高年には、やや量が少ないかもしれない。これも今はやりのメタボリック・シンドローム対策になっているのではないかと思うが、実際には物足りなくて、なんと二つも食べてしまった。これでは逆効果である。あるいは、これがこのお店の戦略なのかも・・・。




(2006年10月1日記)



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