お雛様の季節
2001.02.28 Wednesday | by
悠々人生
3月3日の雛祭りの季節がまた巡ってきた。うちには女の子(といっても近々社会人)がいるものだから、その小さい頃にデパートに出かけて大枚をはたき、お雛様のセットを買ってきたことを思い出す。
少し大きなガラスケースの中に、雄雛と雌雛のほか、三人官女に五人囃子、牛車と箪笥の類、それに左近の桜と右近の橘があって、小さいながらも一応すべてそろっていた。それだけでなく、右上のかわいいネジを回すと、雛祭りのオルゴールの音が聞こえてくる。これを家内はことのほか気に入り、外国に行くときも持っていって、この季節になるたびに、広い居間中にのどかなオルゴールの音を響かせていたものである。
ところが、東京のデパートで最近売られているお雛様セットには、三人官女のほかに五人囃子をそろえているものは、それを見つけることすらむずかしくなってきた。オルゴール付きのものなど全く見かけない。それどころか、雄雛と雌雛しかいないものが相当多いのである。
もっとも、そういう二点雛は結構なかなかに凝っている。着物は帯地であるし、一枚一枚ちゃんと着せてある。いわば一点 いや二点豪華主義なのである。都会の狭い住宅事情を反映して いるのは間違いないが、それ以上にさしもの伝統も、実質主義によって次第に蚕食されつつある証左である。今世紀の末頃になって、良き日本の伝統であるこの季節の行事が、なお残っていることを切に望むものである。
(2001年2月28日記)
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徒然005.ぞんざいな店
2001.02.14 Wednesday | by
悠々人生
きょうはお昼に近くの日本料理屋に入った。ここは、下町の食堂とでも言うのがふさわしいところで、店には何の体裁も加えていないし、店主もその息子のウェィターの兄ちゃんもまるで地のままのぞんざいさである。店内はざわざわしているし、普通ならこんな店に来たくなるはずがないのに、月に2〜3回は顔を出してしまう。
なぜかというとその答えは簡単で、くやしいが、料理の味がよろしいのである。そのうえ、安くて、しかも早いときている。まるで昔の吉野屋であるが、ああいうファースト・フードではなくて、家庭料理そのままに作っていて、それでいて味だけは格別によいのである。
きょう、その店で私はカウンターに座り、焼魚定食を頼んだ。出てきたのは、ぶりの照り焼きに、しじみのみそ汁、それに蓮根だのニンジンだのが入った煮物である。なかなか、うまいと思って、昼時の喧噪の中でそれを黙々と食べていると、隣に私と同年代の紳士が座った。彼は、カウンターの向こうの店主に注文しようとして、こう叫んだ。
お 客 「ミンチカツをください。そっ、それに野菜をたっぷり目にお願いします。」
店 主 「それじゃ、50円増しだよっ!」
お 客 「ぇへへへっー」
店 主 「んー、もうっ。『ぇへへっ』じゃないよ! ほんとだよっ!」
お 客 「そっ、そうかぁー。大雪で最近の野菜は高いからねぇ。」
さて、あなたならどうしますか。このお客のように従順に納得してしまうか、じろりと店主をにらみ返すか、それとも席を蹴って出てくるか。まあ、たかが50円という、誠にもってみみっちい話ではあるが、その人の人生観が垣間見えるというものである。
ちなみにこの紳士は、皿一杯に広がったキャベツのみじん切りの上に、小ぶりのミンチカツがぽつんと置かれたものがくると、それを黙々と食べ始めた。その後どうなったかは、見ていないからよくわからないが、まあおそらくは、言われた額を黙って支払い、そのまま出て行ったのだろうと思う。
(2001年2月14日記)
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