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新型コロナウイルス緊急事態宣言 (第3部)
19.世界の感染者数と死亡者数の考察

(1) さてここで、全世界の新型コロナウイルスの感染者数と死亡者数の統計(5月20日現在)を見てみよう。次の表は、ニューヨーク・タイムズのもので、流行期まで分かる。これによると、アメリカとヨーロッパ主要国が軒並み酷くやられている。中でもアメリカは、感染者が153万人、死亡者が9万人と、目も当てられない状況だ。その一方、最初の発生地である中国は武漢の都市封鎖で完全に制圧したかのように見える。世上、押さえ込みに成功したとの評判が高い韓国と台湾の死者が非常に少ない。韓国は263人、台湾に至っては(余りに少ないことからこの表には載らないが)、わずか7人だ。それにどういうわけか自粛要請が奏効した日本はその中間に属し、感染者数は1万7千人、死亡者数は778人だ。


世界の感染者数、ニューヨークタイムス5月20日


 人口10万人当たりの感染者数は、アメリカやスペインは500人弱、イギリスやイタリアは375人程度、ドイツやフランスは210人強である。これに対し、韓国は22人、日本では13人、中国ではたった6人と、大きな差がある。同じく人口10万人当たりの死亡者数は、アメリカでは28人、イギリス、スペイン、イタリアでは50人台、フランスでは42人、ドイツでは10人である。それに対して、日本、中国、韓国では1に満たない。

 概して、感染者数と死亡者数が欧米主要国ではとてつもなく多いのに、東アジア諸国の日本、中国、韓国ではそれほどでもない。これは一体なぜだろうという素朴な疑問が浮かぶ。特に日本の場合は、強制措置を伴う都市封鎖(ロックダウン)ではなく、外出自粛などの弱い措置だったのに、なぜ被害を最小にとどめたのか、外国メディアでは「不可解な謎」、「ラッキーなだけなのか、政策が優れていたからなのか」と表現する向きもある。

 もちろんこの統計は、いい加減なものである。まず、感染者数はPCR検査をどれだけ、またどんな方法で確認しているかで月とスッポンの差があるから、当てにならない。日本では、当初から5月7日まで「37.5度以上の熱が4日続くこと」などという現実離れした基準を作って意図的に検査をサボって多くの国民に迷惑をかけたほどだ。検査そのものも、日本の専門家に言わせれば検体を取るのに技術が要り、検査にも熟練が必要というから、もしそれが本当なら他の国はどうやってこの感染者数を出しているのか、疑問だらけである。

 他方、死亡者数はまだ信頼できる気がするが、それも、陽性をちゃんと確認した人たちから出た死者なのか、それとも陽性を確認しないまま医師が症状から判断した死者数を新型コロナウイルスによる死者数としているのか、その厳密さが国によって異なる。その他、イギリスなどは途中まで介護施設での死者数をカウントしていなかったほどだ。それに、日本では、町で行き倒れた死者にたまたまPCR検査をしたら陽性だったというケースも散見されたので、本当に新型コロナウイルスで死んだ人の数は、もっと多いはずだ。これを正確な数字とするために例年同時期のトレンドと比べて超過死亡者数がどれだけあるかと調べていくアプローチもあるが、もちろんそれも推計に過ぎない。

(2) そういうわけで、いい加減な統計に基づいてあれこれ考えをめぐらすのもどうかとは思うが、でもこれしかないのだから、仕方がない。まずこの表から思うのは、なぜ、欧米諸国では多くの人が死んでいるのに、日中韓の東アジア諸国では死者の数が桁違いに少ないのだろうかということである。遺伝学的な差異か、社会的な違いか、それとも環境が異なるからか、これからの科学的な解明が待たれる。でも、現段階で、これを説明するアプローチとして、人種的な差、政治体制の差、人口構成の差、医療機関の差、基礎疾患や体型の差、社会的習慣の差、BCG仮説、感染源対策と国民意識の差などがある。ただ、いずれもごく一部しか説明することができない。

人種的な差

 要は遺伝子レベルの差異で、調べようと思ったらこれはもう人種別にDNAを比較するほかない。そのうち緊急事態が去ってよほど暇になったらやればよいが、何もこの時期に取り組む課題ではないだろう。それよりも、新型コロナウイルスに取りつかれたときに、8割の人が無症状である一方、直前まで普通だったのに、突然に重症化し、あるいは死に至ることがあると報告されている。どういう遺伝子の違いがあると、そうなるのかということをDNAレベルで調べた方が良さそうだ。

 その有力な候補として、ヒト白血球抗原(HLA)を調べるプロジェクトが発足したそうだ。これは、免疫反応をつかさどる司令塔の役割を果たす血液中の因子で、これを重症化した患者と無症状の患者とで比べて特有の遺伝子を見つけるというもので、同じ調査研究を諸外国で行って比較すれば、因子をあぶりだすことができる。これが上手くいけば、あらかじめ血液検査で重症化の危険性を把握して、感染した場合に備えることができるし、創薬にも役立てることが可能となる。

政治体制の差

 これは、西側の自由主義国家と旧東側の一党独裁制国家の比較である。中国が感染者数8万9千人、死亡者数4千人台にとどまっているというのは、まさにそれだと思うが、「こんなに少ないわけがないだろう、正しい数字を隠している。」と言われている。その一方、ロシアが感染者数29万人とヨーロッパ主要国並みなのに死亡者数は2千8百人と、これら主要国の10分の1になっている。しかし、これは中国と同じで、政治的に介入された結果、統計が歪められたと思っている人が多い。

 逆にシンガポールの感染者数2万8千人に対して、死亡者数はわずか22人というのは、どう解釈すべきか。これは非常に少ないと思いがちだが、実はシンガポールは当初からその警察力を駆使して街灯のカメラを使ったり、スマートフォンのアプリを通じて濃厚接触者を追うなどして、感染の押さえ込みに成功したと考えられていた。事実、感染者の数はずーっと千人台に押さえられていた。ところが、つい最近になって居住環境が悪い外国人建築労働者の間で急速に蔓延するようになった。この人たちはまだ若いので、幸い今の段階では死亡するには至っていないからだと思われる。

人口構成の差

 ところで、人口構成の差は、死亡者の数を各国比較をする上で大事な要素である。4月19日の少し古い統計ではあるが、新型コロナウイルスによる日本人の死亡率は、30歳代と40歳代0.1%、50歳代0.4%、60歳代1.7%、70歳代5.2%、80歳代11.1%と、高齢者になるほど死亡率が上がっている。ということは、国民の人口構成が若いほど死亡者の数が少ないということを意味する。これは、諸外国でも同じ傾向にある。2月17日の古い統計だが、中国では、30歳代までは0.2%、60歳代は3.6%、70歳代は8%、90歳代は15%となっていた。

 感染者数が5万9千人のサウジアラビアは、若い世代が多いから、死亡者数が329人と少ないのかもしれない。もっとも、別の見方をすれば、この国も外国人労働者が多いので、さきほどのシンガポールと同じタイプなのかもしれない。マレーシアも若者主体の人口構成であるし、医療もそれなりに整っているから、感染者数6千百人、死亡者数114人となっている。

 その割には、高齢化社会である日本が、感染者数1万7千人、死亡者数718人に抑えているというのは、なかなか頑張っている数字ではないかと思われる。これは、次に述べる医療機関の数や優秀さのおかげなのかもしれない。

医療機関の差

 未だ有効な薬やワクチンがない中で、これだけ猛威を振るう強烈な感染症に対抗するには、優秀な医療機関で適切な処置を受ける必要がある。ところが、そういう環境にない国や人々では、死につながりやすい。アメリカでは、所得が低くて簡単には医療を受けられない黒人などの死亡率が高いといわれている。

 また、ヨーロッパ主要国では、あまりに短期間で急速に流行したため、イタリア、スペイン、フランス、イギリスでは、患者が病院に次々に運び込まれた。ところが、ベッド数が足りないものだから廊下にそのまま放置され、そこで亡くなることも多々あったという。これが「医療崩壊」というもので、今回の流行の当初に中国湖北省武漢で起こった悪夢を再度見ているような気がした。その点、ドイツは、患者数は他の近隣主要国並みなのに、ICU(集中治療室)と人工呼吸器などの施設設備や治療看護体制を十分に用意したので、医療崩壊は起こらず、その結果、ドイツの死亡者数は8千人と、他のヨーロッパ主要国の3万人程度と比べて4分の1程度になっている(しかし、それでも日本の死亡者数778人の10倍だ!)。

基礎疾患や体型の差

 新型コロナウイルスでは、経験的にみて、糖尿病、心血管疾患、慢性肺疾患、喫煙による慢性閉塞性肺疾患、免疫抑制状態等の基礎疾患のある患者とともに、高齢者、肥満、喫煙者が重症化しやすいというのは、ほぼ定説となりつつある。こうした患者や高齢者や喫煙者は、危ないだろうなということは、薄々わかる。ところが、肥満体の人がなぜ重症化するのか、まだよく分からない。

 そう言えば、欧米主要国には、本当に肥満体が多い。それも、小錦レベルのもの凄い肥満体である。現地で地下鉄に乗ったり、レストランに入ったりしたときの実感では、4割近い人が肥満だ。しかも不自然に太っている。よくあれで歩けるなぁと思うほどだ。こういう人々は、東アジア諸国では、まず見かけない。

 だから、新型コロナウイルスがこのような肥満体の人に取り付いたら重症化しやすいというのなら、死亡者数の彼我の差は、ある程度、説明できそうだ。

社会的習慣の差

 ヨーロッパでは、特にイタリアで最初の感染爆発が起こった。イタリアでは、握手は言うに及ばず、さほど親しい間柄ではないと思われるのにハグしたりキスしたりと、人と人との接触が非常に密接である。私が一家でイタリアに行った時、娘がまだ小さくて(それなりに)可愛かったせいか、あちこちでキスをされそうになり、娘は嫌がって逃げ回ったほどである。

 また、イタリアでは家族の間柄が非常に密接なので、週に一度は祖父母の家に集まって皆で食事をするという習慣があるが、実はこれが裏目に出て、新型コロナウイルスが一気に蔓延してしまった。それに対して、日本人は挨拶と言えばお辞儀だから、握手、キス、ハグのような肉体的接触を伴う挨拶はない。これも感染予防に大いに役立っているのかもしれない。

 それに、なんと言ってもマスクの効果は無視出来ない。水野康孝医師のおっしゃるように、マスクにはウイルスの侵入を防ぐ効果はないかもしれないが、自分が感染者の場合に周りの人にウイルスを感染させないためにはマスクが実に効果的である。ということで、日本にはマスクを着用する習慣があり、人々は自然にそれを受け入れている。それだけでなく、たまたま2月から4月にかけては花粉症の季節だったので、日本人の2割とも3割とも言われる花粉症の方は、ごく自然にマスクをしていた。だから、この新型コロナウイルスの話を聞いただけで、ほとんどの人がマスクを着用するようになった。

 これに対して、欧米では、新型コロナウイルスの流行前は、マスクをするのは(潔癖症などの)よほどの変人か、あるいは本当に具合の悪い病人かというのが常識だったので、マスク着用が遅れたものと考えられている。

BCG仮説

 このほか、結核を予防するBCGワクチンが新型コロナウイルスに有効だったのではないかという仮説がある。結核と新型コロナウイルスとは全く無関係だが、しかしBCGワクチンは一般に免疫作用を促進するので、新型コロナウイルスにも効くというのである。なぜそういう説が出てきたかというと、日本、中国、韓国はBCGワクチンの定期接種国であるのに対して、感染爆発が酷いアメリカやイタリアは、定期接種国ではないからではないかというのである。ただ、この説は検証されていない。それどころか、イスラエルでBCGワクチンを受けた群とそうでない群を比較してみたところ、有意な差はなかったという報告があるそうだ。

感染源対策と国民意識の差

 日本では、流行の当初から、保健所が「濃厚接触者の調査」をしっかりと行い、感染源の追跡を行ってきた。これは、中国、韓国、シンガポールなどで行っている最新のGPS、クレジットカード利用履歴、防犯カメラなどのハイテクによる追跡と比べて、アナログそのものである。しかし、流行の当初はかなり有効で、その拡大防止にとても役立ったと言われている。ただ、感染規模が大きくなると、とても追いつかなくなった。これからは、やはりハイテクによる追跡を導入せざるを得ないだろう。

 もうひとつは、いわゆる「三密(密閉、密集、密接)」という感染対策のスローガンで、今回の新型コロナウイルスのような特徴の感染症対策には、非常に有効であった。

 最後に、日本では2月初頭のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」で起こった集団感染事件で、新型コロナウイルスとはこれほどまでに恐ろしいものかという記憶が国民に刻まれた。だから、日本で流行が始まり、(罰則を伴う強制的な都市封鎖ではなく)色々と自粛が呼びかけられたときに、国民が進んで協力しようという意識が自然に生まれたのではないかと考えている。法律による緊急事態宣言は4月7日と出遅れたが、結果的には上手く押さえ込んだと思われる。ただし、これはあくまでも第1波に過ぎないから、手放しで喜ぶにはまだ早い。

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20.閑話休題

(1)ナイトクラブの新型コロナ対策

 今回の緊急事態宣言は、旅行、観光、小売、レストラン、製造業などの幅広い業種に大きな影響を与えた。東京都は、5月25日に緊急事態宣言が解除されてもステップ3として、クラスターが発生したことがある「接待を伴う飲食店等、カラオケ、ライブハウス、スポーツジム」については引き続き自粛要請を継続する姿勢である。

 先日、NHKテレビを見ていたら、団体「日本水商売協会」というものがあって、妙齢の女性たちが記者会見を開いていた。それにしても、そのものズバリの単刀直入な名前だなぁと思って見ていたら、何とこれが一般社団法人なのだそうだ。ひと昔前だと、とても認可されなかったと思うので、これにはビックリした。これも、社団法人改革の「成果」なのだろう。この法人は、東京都内のナイトクラブやキャバクラ店で働く女性たちによって構成されているそうで、今回の自粛要請により生活が厳しいと訴えている。

 それには同情を禁じ得ないが、「経営が厳しく休業要請の解除を待たずに営業を再開する店もあるとみて、専門家の監修を受け、独自に感染対策のガイドラインを作成した。」というのは、いただけない・・・それはいわゆる自粛破りではないか・・・。それに、あまり早まって営業を再開して、先日の韓国のナイトクラブでの206人もの集団感染のように、万が一、クラスターが発生したら、誰も来なくなるのではないだろうか。

 ところでそのガイドラインを見たところ、例えば、.泪好着用。飲み物を飲む時以外は外さない。検温による入店規制体温計(非接触型が好ましいが、接触型の場合、人ごとにアルコール消毒)、4鏡拡大大国からの入国後14日以上経過していない方の入店規制、ぅ宗璽轡礇襯妊スタンス(キャストとお客様のペアごとに1卓分あけて着席)、イ任れば、接客のキャストはチェンジなしの固定(接触者をできるだけ減らす目的)などとある。

 いずれも、まあ常識的な内容だが、ナイトクラブで女性がマスク姿というのは、これで商売が成り立つのかという気がする。マスク姿でお相手ができるのか、せめて透明なフェイスシールドにすべきではないか・・・ちょっと余計なことかな・・・などと思っていたら、記者会見に出たキャバクラ店の経営に関わる女性が、このように話していた。「やむをえなく営業する場合でもマスクを外すわけにはいきません。いつかマスクを外して『こういう感じの女性だったのか』という日が来るのを楽しみにしてもらいたいです」と。なるほど、ものは言いようだ。しかし、そう上手くいくだろうか。ともあれ、ポスト・コロナの時代には、夜の世界も容易には立ち直れないほどの打撃を被りそうだ。


(2)トランプ大統領が抗マラリア薬を摂取

 5月18日のトランプ大統領の記者会見をテレビで見ていて、驚いてしまった。トランプ大統領は、「(抗マラリア薬の)ヒドロキシクロロキンを2週間ほど前から飲んでいる。いろいろと良い効果があると聞いているから。問題ない。まだ、ここに、こうしている。」と述べたのである。

 確かに、新型コロナウイルスについては、治療薬を新規に開発する時間的余裕がないため、既存の薬で効果のあるものはないかと世界各国で探索が続いている。ヒドロキシクロロキンもその一つで、もしかすると効果があるかもしれないということが言われている段階に過ぎない。そんな海のものとも山のものともわからない段階のものを、事もあろうにアメリカ大統領たる者が、何の科学的検証もせずに飲むものか、これは常識というものだ。こんな人が、核大国として核爆弾の鍵を握っていて、大丈夫なものだろうかと思ってしまう。

 ちなみに、この報道があったその直後の23日、BBCによると、「英医学誌ランセットは、ヒドロキシクロロキンを新型コロナウイルスの患者に投与しても、治療効果は見られなかった」と報じている。それどころか、「投与された患者は入院中に死亡する確率が高く、心拍異常がみられた」という。

(20は、5月25日記)



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