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徒然279.落日の小保方STAP細胞

今回の論文と学位論文との間で画像の使い回しが疑われる理研の調査報告


 2014年の新春を揺るがす話題となったSTAP細胞は、弱冠30歳そこそこの小保方晴子・理研ユニットリーダーが発見したということで、華々しい記者会見が行われた。かくしてわずか3ヶ月前には、ノーベル賞学者の山中伸弥・京都大学教授のiPS細胞に匹敵する、いやそれ以上の世紀の大発見だと褒め囃されていた。それなのに今では、前代未聞の嘘だったと大いに貶され、小保方晴子・理研ユニットリーダーをはじめこの研究に関与した笹井芳樹・理研副センター長、若山照彦・山梨大学教授などは面目を失い、とりわけ小保方晴子さんは一度だけ記者会見を開いて弁明したものの、それ以外は会見には応じていないという有様である。それにしても、2014年1月30日の小保方晴子・理研ユニットリーダーの記者会見は、衝撃的だった。朝日新聞の記事は「理化学研究所などが、まったく新しい『万能細胞』の作製に成功した。マウスの体の細胞を、弱酸性の液体で刺激するだけで、どんな細胞にもなれる万能細胞に変化する。・・・生命科学の常識を覆す画期的な成果だ」と書いたが、どの新聞もこれと同じような大成果を喧伝していた。しかもこの研究の中心となったのが、うら若い美人研究者で割烹着を着て研究に励むリケジョ(理系女子)とくれば、報道機関が放っておくはずがない。発表の舞台が我が国を代表する研究機関の理化学研究所(理研)だったことから、その研究内容を少しも疑うことなく、STAP細胞の将来性や特許戦略まで論じられる狂想曲があちこちで奏でられた。

 ところが最近はインターネット時代であることから、その発表から間をおかず、どうもおかしいという情報がネット上に流れ始めた。たとえば、発表後直ちにSTAP細胞の再現実験に取り組んだ研究者達が、どうやっても再現できないというのである。それだけでなく、ネイチャー誌に掲載された論文の写真は、そもそも博士論文の切り貼りではないかというものもあった。ここに至って、理研当局が調査委員会を立ち上げ、論文の詳細な調査に取り掛かった。すると、ネイチャー誌の掲載された小保方論文2編の中に、(1) 画像の不自然さ、(2) 画像の切り貼りの疑い、(3) 記載の一部盗用の疑い、(4) 記載の一部の間違い、(5) 画像の取り違えと小保方学位論文画像との酷似、(6) 画像の酷似という問題が見つかった。このうち、(1)、(3)、(4)及び(5)については研究不正行為とは認定されなかった。しかし、「(2)は、DNAの梯子が並んでいる縦の画像の一部が明らかに切り貼ってあるのが見てとれる。小保方氏はこれについて『このような行為が禁止されているとは知らなかった』と説明するが、これは「研究者を錯覚させる危険性があり、(実験結果を)綺麗に見せたいとの目的性を持って行われたデータの加工である」などとして研究不正行為に当たる。とされた。更に(5)について「小保方氏は『STAP細胞作成の条件の違いを十分認識しておらず、間違えて使用した』と説明した。これに対して、論文1の画像は2014年4月にネイチャー誌に投稿し、採択されなかった論文にすでに使用されていた。3年間の実験ノートが2冊しかなく、これらのデータの由来を科学的に追跡することはできなかった。学位論文の画像に酷似するものを論文1に使用したものと判断。データ管理が杜撰であり、由来の不確実なデータを論文に使用した可能性もある。学位論文と論文1では、実験条件が明らかに異なる。論文1の画像には、学位論文と煮た配置の図から切り取った跡が見える。このデータはSTAP細胞の多能性を示す極めて重要なデータである。・・・データの信頼性を根本から壊すものであり、その危険性を認識しながらなされたと言わざるを得ない。」として、これについても研究不正行為に当たるとされた。

 この調査報告書を受け取った小保方晴子・理研ユニットリーダーは、4月1日に「驚きと憤りの気持ちでいっぱいです。特に,研究不正と認定された2点については,理化学研究所の規程で『研究不正』の対象外となる『悪意のない間違い』であるにもかかわらず,改ざん,ねつ造と決めつけられたことは,とても承服できません。近日中に,理化学研究所に不服申立をします。このままでは,あたかもSTAP細胞の発見自体がねつ造であると誤解されかねず,到底容認できません。」などというコメントを発表した。加えて4月9日には記者会見を開いて「STAP細胞は200回以上、作製に成功した。」「第三者も成功している。」という発言があった。しかし、それを裏付ける具体的な証拠の提示はなかったので、それを聞いていた私などは、いまひとつ納得できなかった。また、4月16日には小保方氏の直接の上司である笹井芳樹・理研発生・再生科学総合研究センター副センター長の記者会見があったが、論文の最後の2ヶ月強の頃に参加しただけで、多くのデータは若山照彦・山梨大教授がチェックしたのを前提に見ていた」などと述べ、関与が小さかったことを強調していたことと、STAP細胞の再現はいかに難しいかを説明していたことが印象に残っただけだった。そうこうしているうちに、その肝心の理研調査委員会の石井俊輔委員長自身が、自らの論文で画像の切り張りや使い回しがあるとの指摘が出て辞任してしまうという混乱があったりした。総じて、理研自体のガバナンスが全く効いていないことだけが浮き彫りになっている。

 理研自体が、STAP細胞の再現に今後1年間ほど掛けて取り組むそうだが、その一方で小保方晴子・理研ユニットリーダーは2年程度で200回以上作成したという。そうすると、その再現になぜ1年間も掛かり、しかも現在まで誰もそれらしき細胞の作出がなされていないのか、やはりおかしいと考えるべきだろう。もちろん、科学の世界だから何がどのように発見されるかはその時になってみないとわからないけれども、酸性の液体に20分ほど浸けるとSTAP細胞が出来るというなら、我々の胃の細胞も常にSTAP細胞化されているのかもしれないという気にもなる。ともあれ、まだわからないことだらけではあるが、このまま推移すると、どうやらこれも、世紀の誤報となりそうである。それにしても、このSTAP騒動で関係者が陰に陽に受けた被害には誠に甚大なものがある。理研自体がその信頼性を大きく傷つけたし、研究開発促進のための特別立法の対象も予定されていたのに、延期となった。この論文に名前を連ねていた研究者も、信用を大きく失墜した。共同研究というのも、これほどいい加減に行われているものとは思わなかった。まあしかし、本件を契機に、研究者が研究や論文の執筆に注意深くなり、そして適正な倫理観を持つようになったのではないかということが、唯一の収穫なのかもしれない。


■ 笹井芳樹・理研発生・再生科学総合研究センター副センター長の記者会見資料


今回の論文と学位論文との間で画像の使い回しが疑われる理研の調査報告



今回の論文と学位論文との間で画像の使い回しが疑われる理研の調査報告



今回の論文と学位論文との間で画像の使い回しが疑われる理研の調査報告




■ STAP論文について(2014年3月14日付け)

 この度は、当センター職員が発表した研究論文に不適切な点が多々あり、大きな混乱を生み出しましたことについて、センターの責任者として心からお詫び申し上げます。今回報告いただいた調査委員会の中間報告を真摯に受け止めております。

 誤りを指摘された論文著者は、論文の訂正をNature誌に投稿しているところではありますが、種々の誤りの中に、論文の信頼性を著しく損ねる誤りが発見されました。これにより、本論文を速やかに撤回し研究をやり直すことが最も重要であると私は判断し、論文撤回を著者に勧めました。ただし、論文の撤回は、全ての責任著者の合意を経た上で、撤回についての最終判断はNature誌に任されております。

 本論文がこのような状況に陥ったことは誠に遺憾であります。私共は、今回の出来事を教訓とし、これまで以上に、研究の実施及び論文作成等における倫理観の育成、適正な情報管理を行うための心構えを再確認し、再びこのような事態が起こらないよう最善を尽くして参ります。STAP細胞の真偽については、独立の研究グループによって検証・再現されることが唯一の手段であります。科学者コミュニティによる積極的な検証を是非ともお願いしたく存じます。

 独立行政法人理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター センター長 竹市雅俊

■ STAP研究論文の疑義に関する調査報告書(全文)、研究論文の疑義に関する調査報告書(スライド)




(2014年5月24日記)


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