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徒然264.山中伸弥教授にノーベル賞

野田佳彦首相と握手するノーベル賞受賞者の山中伸哉教授。首相官邸HPより


 この徒然の記シリーズの69で人工多能性幹細胞(iPS細胞)の記事を書いてちょうど5年が経った2012年12月7日、その作出者の山中伸弥教授は、ストックホルムのカロリンスカ研究所においてノーベル生理学・医学賞受賞を受賞された。ジョン・ガードン博士との共同受賞であり、ガードン博士といえば50年前の山中教授が生まれたその年に、オタマジャクシを使って細胞核の初期化の分野を開拓した科学者である。これからもわかるように受賞までに何十年もかかることが普通といわれているノーベル賞であるのにもかわらず、山中教授の場合は最初のネズミの細胞を使った研究の発表から数えるとわずか6年目での受賞であり、本当に素晴らしいことである。それだけ世界の科学をリードする重要な成果だと認められたからであろう。心からお祝いを申し上げたい。

 新聞記事や受賞インタビューなどによると、山中伸弥教授の人生はかなり山あり谷ありというものだったらしい。中学高校では柔道、大学ではラクビーに打ち込んだが、怪我が多くて整形外科医を志した。ところがその怪我がかえって人生観を変え、「怪我というネガティブなことから人生の目標が出来、人生は塞翁が馬という古諺を意識するようになった」・・・「どう見ても手術が下手で、ほかの人なら30分で終わるところが2時間はかかり、『じゃまなか』と呼ばれた」そうな。そのときは自らのことを「挫折した外科医」と思っていたという。

 そこで、大阪市立大学大学院医学研究科に入学して研究者への道を歩み出した。1993年から3年間、サンフランシスコのグラッドストーン研究所に留学し、トーマス・イネラリティ博士のもとで研究を始めた。そのとき、所長の「Vision and Work Hard」という言葉が心に残った。それで基礎研究から臨床応用に結び付けるビジョンが大事だと思うようになったそうな。ところが95年に帰国してからは、大阪市立大学でまるでアシスタントのやるようなネズミの世話に追われる毎日で、悶々とした日々を送った。そんな中、奈良先端科学技術大学院大学で助教授の公募があった。それでだめだったら元の外科医に戻ろうと思って応募したところ、案に相違して採用され、助教授として研究室を持った。そこで「急に有名にはなれないが、夢とビジョンは示せると思い、皮膚の細胞を初期化して万能細胞にするビジョンを立てた」という。

 そして、実験を担当した高橋和利博士研究員に「うまくいかんのはわかっているが、どんなことになっても雇ってやるから、思う存分にやれ」と言って実験に踏み出した。2万個を超える遺伝子の中から当時明らかになっていた遺伝子データベースを使って初期化に必要な遺伝子を24個見つけ出した。それがどのように組み合わさって初期化するのかわからない中で、高橋博士はその中からひとつひとつ抜いていって実験し、初期化に必要な遺伝子を4個特定した。これがマウスでの実験で、2006年にその成果が発表された。それからちょうど1年後、ヒトの細胞でも成功し、今回のノーベル賞の受賞につながった。

 ただ、iPS細胞研究は、むしろこれからが本番を迎えることになる。ガン化を防止しながら健全な細胞を工業的に大量に作出する技術は、京都大学iPS細胞研究所を中心に出来上がりつつある。さらに一歩進んでこの成果を基礎として、iPS細胞から臓器や組織を作って難病研究や臨床応用を行っていくことが重要になる。

 しかしながら、さらにその先の話であるが、そもそも細胞中でこれら4個の遺伝子がどのように働いているから初期化が行われるのかというその仕組みが解明されないと、私などは落ち着かない気がする。山中教授がせっかくその4個の遺伝子を見つけたわけであるが、これらがどのようなタンパク質を作り出し、細胞の機能をいかにして制御しているのかが問題なのである。もっともそれは、細胞という生命体の物理的化学的な仕組みがわかっていないと、できない相談である。何百年も先のことだろうが、そういう時代がいつかは来そうな気がしている。

(2012年12月11日記)



[文部科学大臣談話]京都大学山中伸弥教授ノーベル生理学・医学賞受賞について

 京都大学山中伸弥教授が、本年のノーベル生理学・医学賞を受賞されましたことに心から敬意を表します。

 今回の受賞は、山中教授の「人工多能性幹細胞(iPS細胞)」というほぼ無限に増殖する能力とあらゆる組織や臓器の細胞になりうる多能性を持った幹細胞の樹立に、世界で初めての成功した研究業績が高く評価されたものです。山中教授には、昨日7日に京都大学iPS細胞研究所を視察し、最新の研究成果について御説明を頂いたところです。山中教授の研究は、日進月歩で進んでおり、若手研究者が目を輝かせて仕事に打ち込んでおり、非常に感銘を受けました。

 この研究が更に発展し、一日も早く再生医療や創薬に貢献することを期待しています。今回の受賞は、我が国の研究水準の高さを世界に示すとともに、国民全体にとって大きな励みと誇りを与えるものです。この受賞を契機に、文部科学省としても、国際的にも注目される重要な研究に対し重点支援を行うとともに、研究環境の整備充実や若手研究者の育成など、研究支援を一層充実していく所存です。(平成24年10月8日)




 
[山中伸弥京都大教授のノーベル賞受賞記念講演の要旨](共同通信)


 【はじめに】

 五十年前、私の生まれた年に細胞核の初期化の分野を開拓したジョン・ガードン氏とノーベル医学生理学賞を受賞できることを光栄に思います。

 【研究者への道を歩み出した頃】

 整形外科医から基礎医学に転向した私は「予期せぬ結果」と「素晴らしい師」と出会えた二点でとても幸運でした。

 大阪市立大では、大学院生として三浦克之先生の指導のもと、三浦先生の仮説を確かめる実験をしました。血圧を下げないだろうと予想される物質を犬に投与したところ、予想に反して血圧が下がりました。驚いて三浦先生に報告したところ、自分の仮説が外れていたにもかかわらず一緒に喜び、研究を続けることを励ましてくれました。

 1993年に博士号を取得し、米グラッドストーン研究所のトーマス・イネラリティ博士のもとで研究を始めました。ここでも、イネラリティ博士の仮説を証明すべく、「APOBEC1遺伝子」を過剰に発現させると、コレステロール値が下がることを期待して実験しましたが、予想が外れ、この遺伝子が肝細胞がんに関わることが分かりました。しかしイネラリティ博士はその結果に興奮し、研究を続けることができました。

 私には二タイプの師がいます。一つ目は三浦先生やイネラリティ博士のような研究者としての師です。彼らのようになりたいけれど、なかなか苦戦しています。二つ目は、自然そのものです。自然は時に予想していなかったことを私に教えてくれ、新たなプロジェクトへとつながりました。

 【iPS細胞に至る研究】

 APOBEC1遺伝子の研究過程で、NAT1という遺伝子が見つかり、マウスの胚性幹細胞(ES細胞)にとって大切なことが分かりました。ES細胞にはほぼ無限に増殖する能力と、さまざまな細胞に分化する能力がありますが、NAT1は後者の多分化の能力に重要であることが分かりました。

 このころ、米国から日本に帰り「帰国後うつ」という病気にかかりました。マウスのES細胞の研究が患者さんの助けになるのか、研究の方向性について悩んでいましたが、二つの出来事によって回復しました。一つは、米国のジェームス・トムソン博士のヒトES細胞の樹立というニュースです。もう一つは99年、37歳の時に奈良先端科学技術大学院大で研究室を持ったことです。

 私は「受精卵からではなく、患者さん自身の体の細胞からES細胞のような幹細胞を作り出すこと」を研究室の長期目標として掲げることにしました。それまでに明らかにされていた研究の流れから、理論的には可能だと思っていました。

 20年、30年かかるか、あるいはそれ以上か見当もつきませんでしたが、2006年にはマウスで、07年には人でiPS細胞の樹立に成功。4つの因子で細胞核を初期化できることを示すことができました。

 この成功は私だけのものではなく、3人の若い科学者、高橋和利君、徳沢佳美さん、一阪朋子さんの努力なしには成し遂げられませんでした。また、iPS細胞に至る3つの道筋をつくった科学者たちにも感謝したいと思います。

 一つ目の道筋は、体細胞の核を卵に移植することによる体細胞の初期化研究の流れです。ガードン氏や多田高(たかし)京都大准教授らがこの流れで成果を挙げました。

 二つ目は、単一の転写因子によって細胞の運命を変えることを示した研究の流れ。三つ目は、ES細胞などの未分化細胞で多能性に重要な因子を同定する研究の流れです。

 【iPS細胞の可能性】

 私は京都大iPS細胞研究所の所長であり、グラッドストーン研究所の上席研究者でもあります。iPS細胞の応用には三つの可能性があり、その研究を推し進めています。

 一つ目は、患者さんからiPS細胞を作製し、それを患部の細胞に分化させ、病気を再現することで、病気の解明や薬剤の探索に活用することです。例えば筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんに体細胞を提供していただいてiPS細胞を作り、神経に分化させ、病気の状態を探る研究をiPS研究所の井上治久准教授が行っています。

 二つ目は、iPS細胞から分化させた細胞で薬の副作用を調べること、三つ目は再生医療です。

 今、新しい流れが出てきています。(iPS細胞を経ずに)細胞の種類を直接変える「ダイレクトリプログラミング」などで、近い将来、こうした研究者たちにもう一つノーベル賞を取ってほしい。



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