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人生のTips (5) 耳を大事にすること

新宿御苑のハナミズキ



  地下鉄に乗って、空いている座席にそろりと座る。すると、次の駅で若者が私の隣にやって来て、ドカッと座った。一瞬、座席のベンチシートが揺れる。ジーンズを履いたその若者は、両耳にイヤホーンを付けており、それが地下鉄内の電車の騒音にも負けないくらいの大きな音を流す。シャカシャカ・シャカ・ジャーン・・・こうなると、私には音楽というより雑音・騒音のたぐいだが、そんなものを外部にも大きく聞こえるほどの大音量で自分の両耳に垂れ流すなんて、どうみても自殺行為だ。それにしても、うるさいなぁと思っていたところ、何と若者はそのままの状態で寝てしまった。自分の耳がますますバカになるではないか・・・。

 1979年にソニーがウォークマンなるものを発売したとき以来、ポータブルな機器のメディアに入れた音楽を持ち運んで歩きながら、両耳のイヤホーンで音楽を聴くというスタイルが定着した。つまり「音楽が持ち運べるようになった」というわけである。メディアこそ、カセットテープ、ミニディスク(MD)、コンパクトディスク(CD)、メモリースティック、内蔵ハードディスク、内蔵メモリと進化してきたものの、ヘッドホンと称してイヤホーンを両耳に突っ込むというスタイルは変わらない。これをソニーが生み出した新しい若者文化だと称賛する声がある。しかし、何にせよプラスの面があれば、その裏には必ず隠れたマイナス面もあるということを忘れてはならない。

 私はウォークマンの発売当初から、こんなことをしていては、聴力が低下して、耳に悪いのではないかと思っていた。もちろん、ちゃんとした研究の結果が別にあったというわけでもなく、これは単なる直観によるものだけれど、一見してそう思い、それからはこんなものを買って耳に付けて音楽を聴こうなどという気は起らなかった。しかし、先ごろテレビを見ていたら、音楽家の千住明さんが私と同じようなことを言っていたので、我が意を得たりという気持ちになった。千住さんは東京藝術大学作曲科卒業であるが、学生時代には同級生のほとんどが通学途中でウォークマンを聴いていたという。ところが彼は、ヘッドホンを常時、両耳に使うというのは、耳に対する負担が大きいからするべきではないとしてウォークマンは使わなかった。それから何十年と経った今でも、千住さんの耳は十分に健康で、作曲のときには大いに役立っている。ところがその頃、ウォークマンを聴いていた友達のほとんどは、例外なく聴力が衰えて、音楽家としての耳の役割をもう果たせなくなっている人が多く、ウォークマンを安易に使ったことを悔いているという。

 だから、地下鉄の車内で私の隣に座ったその若者は、そのうち難聴に悩まされる可能性は高いと思うが、そういう影響が現れるのは、かなり年をとってからであろう。まあこれは、ちょうど日焼けが素敵だと思われていた時代に、わざわざ街の日焼けサロンに行って体も顔もすべて真っ黒に日焼けし、悦に入っていたガングロと呼ばれたお姉さんたちと、共通するところがある。年をとって悔いても、もはや手遅れなのだ。いずれにせよ、家でも外出先でもどこでも、イヤホーンを1日中、両耳に突っ込むという愚行はやめて、もっと自分の耳を大事にした方がよいと思うのである。




(2012年 5月 9日記)


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